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■ 第26回 三島市の景観まちづくり(最終回)            2007.10.1
                                            

「水の都」と呼ばれてきた静岡県三島市では、富士山に降った雨や雪解け水が溶岩の中を流れ市内各所で湧き出ています。かつて豊富であったこの湧き水も、地下水の過剰な汲み上げや都市化の進展により、残念ながら1960年代以降その量が減少してきています。

湧水を復元し、水に親しむことのできる環境を作ることにより、三島を再び水の都にしようと提唱された「街中がせせらぎ事業」に、市民・企業・行政が協働で取り組んでいます。目的は「歩きたい街、住みたい街」づくりです。市民の参加が基本であり、NPO法人「グラウンドワーク三島」が活動のけん引役を担っています。合言葉は「右手にスコップ、左手に缶ビール!」。


蘇った源兵衛川

三島は三嶋大社の門前町として、また東海道五十三次の中でも大きな宿場の一つとして栄えました。東の箱根峠を無事に越え宿に着くと、"山祝い"をしたと伝えられています。箱根旧街道、東海道の名残りをとどめる松並木、国分寺跡、山中城址など史跡や文化遺産も数多く残されています。

三島市は三方を豊かな自然に囲まれています。北には富士山、南には伊豆の温泉郷、東には箱根西麓があり、スギやヒノキの美しい森林が広がっています。
市内で使用される水道水はすべて地下水を源としていますが、水質はまろやかな軟水でミネラルも適度に含まれているため、お茶やコーヒーが美味しいと言われます。1週間湧水にさらされ、ドロや餌を吐き出した三島うなぎの美味しさも評判です。

グラウンドワークとは、市民が主体となり、行政や企業と連携しながら地域の環境改善を推進する、1980年代にイギリスで始められた実践的運動です。グラウンドワーク(以下GW)三島は日本で最初にイギリス方式を導入し、水辺自然環境の再生・改善を目的として設立されました。市内8つの市民団体が中心となり1992年にスタート、現在参加団体は20にまで拡大しています。GW三島の"ジャンボ"こと渡辺さん、三島市まちづくり部まちなみ再生課の福田さんにお話を伺いました。



三島市の鳥・カワセミ


楽寿園の湧水

案内標識

  • 「街中がせせらぎ事業」の目的は、市街地の歴史や文化に加え、水辺などの自然環境を活用し、それらを結ぶ散策ルートを整備することにより、住民・訪問者双方にとり快適な空間を作ることである。
  • かつて美しかった源兵衛(げんべえ)川も、水量の低下および生活用水の流入やゴミの放置により、水辺環境が著しく悪化しドブ川と化していた。
  • 楽寿園の湧水を水源とし市内を南に流れる、全長1.5kmの源兵衛川の流域を8つのゾーンに分け整備した。この再生事業をキッカケとして、GW三島が組織され、市民の協力により水辺環境の改善が加速された。
源兵衛川の遊歩道
  • 整備が完了し清流として蘇った現在も、地元住民により生態系を守り育てる地道な運動が継続されている。
  • 子供たちの川遊びする姿も見られるようになった。シニア世代には自分たちの子供時代の風景を見るようで懐かしい。川沿いには遊歩道が整備され、市民のみならず訪問者にもやすらぎを与えている。
  • GW三島は36のプロジェクトをすでに実施、または現在展開中であるが、「三島梅花藻(ばいかも)の里づくり」もその一つ。一旦は姿を消しためずらしい三島の水中花を復元しようと、美術館の湧水池を借りて育成・増殖している。
  • 源兵衛川などに移植されるようにもなり、可憐な白い花を咲かせている。きれいな冷たい水の中で、1日最低5時間以上日光が当たらないと育たない。三島梅花藻は水質のバロメーター。

水の仕掛け
  • 湧水が涸渇しドロ沼状態となっていた宮さんの川(蓮沼川)上流部においては、人工的なせせらぎにより「ほたるの里」を作った。今では自然発生のホタルが飛び交うまでになり、夏の風物詩が復活した。
  • 松毛(まつげ)川子ども環境探検隊を募集し、水生生物の観察、河畔のゴミ拾い、河畔林の植林という実践的啓蒙活動を行っている。松毛川では大繁殖したホテイアオイが枯れて水質を悪化させ、生き物を激減させていた。
  • ホテイアオイの除去も始まり、第2の源兵衛川にしようと頑張っている。生きた環境教育推進のため、「学校ビオトープづくり」にも取り組んでいる。
ほたるの里
  • 渡辺さんが運動を起こしたキッカケは、20年前桜川にゴミを捨てている市民を目撃したこと。すぐに市内の川・湧水池を見て回った。全てが汚染されていた。
  • 行政が強過ぎるのはよくないとの思いから、住民参加、当時で言う「地域総参加」運動を起こさねばと考えた。鳥や魚の生態系を調査するという"科学的アプローチ"を試みた。"負のデータ"が集められ、市民の説得材料となり、問題意識を植え付けることに成功した。
  • 推進役としての組織が必要と「三島ゆうすい会」を設立した。次いでネットワークづくり、GW三島の誕生へと繋がっていく。
  • 運動を続ける中に、ボディーブローのように市民の内発的意識が高まってきた。やりながら考えるようになり、行政の悪口は言わなくなった。市民の68%が渡辺さんたちの運動を知るまでになった。
住宅街を流れる水路・足水
  • 今後は情報発信力を高め、三島の運動を他の地域にも波及させるとともに、まちづくりの教材として普遍化させたい。内外から多くの視察団が訪れているが、一様に"水の美しさ"に感動し、元気になって帰ってくれる。
  • 団塊世代には今後期待するところ大である。「せせらぎシニア元気工房」では、シニアが放置竹林や間伐材を利用した製品の製作、販売を試みている。大学生など若い世代や女性の力も借りたい。
  • 「古くて、新しい三島」、市民は新しいもの好き。新たな運動には興味を示してくれる。「誰かが見ていてくれる、応援してくれる」との信念が渡辺さんの活動を支える。
雷井戸前の三島梅花藻
  • 福田さんによれば、かつては水道が不要と言われるほど三島の水は豊富であり、碁盤の目のように水路が張りめぐらされ、各家庭の台所まで引かれていた。
  • 三島市の景観アンケートに対し、65.5%の一般市民が「非常に~少し美しくなった」と回答。理由の1、2位はせせらぎの水がきれいになったことや護岸整備。景観づくりへの参加を希望する市民が多いことも分かった。
  • 行政も景観整備事業を積極的に推進。川のプロムナード修景整備の他にも、市内各所に「水の仕掛け」を施したりしている。歩いて市内を回る「せせらぎウオーク」の楽しみが増えるとともに、少し癒された気分になる。
  • 殺風景だった三島駅前には、せせらぎのまちの玄関口として"水の流れ"が演出されている。三島市が募集したボランティア、「JR三島駅南口里親」により駅前は毎日清掃され、常時清潔さが保たれている。

川中に飾られた花
  • 三嶋大社から広小路駅の間および大社前の旧下田街道の一部では、電線類の地中化が進んでいる。あと2年で完成。すっきりした道路を見て、他地区からも地中化の要望が出されるようになった。
  • 福田さんたちにとり三島市の誇りは、水と緑と歴史の調和した、落ち着いたまちであること。江戸時代の三島八景に代わり、現代版「新三島八景」を選定した。春の「三嶋大社桜の舞」に始まり、季節感溢れるものとなっている。
  • せせらぎ事業のフォローアップ、実効性のある景観計画づくり、文化的遺産と景観整備の調和、交流人口の増加…、行政側のやるべきことも尽きない。             <完>
三島駅前のやすらぎ
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<「景観によるまちづくり紹介」の連載を終えて>

26回にわたり掲載した内外の景観づくり先進地域の事例から、私たちは「何を学び」、これから「何をしたら」よいのか。ヒントとなる項目を列挙してみたい。

  ①「プライド・オブ・プレイス」の考え方、自分たちの住むまちに対し愛着心や誇りを持つこ
    と。これがなければ景観づくりは始まらない。
  ②身近なところからとにかく始めること。ゴミ拾いや自宅周辺に花を飾ることなども、立派
    な景観づくりである。
  ③景観づくりのテーマには、自分たちが住んでいる地域のよさを引き出すもの、身の丈に
    合ったものを設定する。まずは住みやすいまちづくりから…。
  ④市民と行政のコラボレーション、まちを美しくする実行部隊は市民であり、市民主導型
    の運動が特に大切である。退職が始まった団塊世代や女性の力を借りることも景観づ
    くりには有効である。
  ⑤継続すること、「継続は力」。景観づくりはエンドレスであるが、時間をかけてつくった景
    観の魅力は持続し、後世への贈り物ともなる。最低10~20年をかけ、急がずじっくりと
    取り組む。

ハード面が中心となる景観整備の重要なキーとしては、私見ではあるが「建物の色彩と高さ」「広告看板の除去ないし工夫」「電線類の地中化」「ゴミ処理」の4つを挙げたい。これら4つの要素に改善が見られれば、景観づくりは大きく前進するのではないか。

連載中に「景観法」が成立、景観づくりに対する動きも各地で活発になってきた。京都市では建物の高さ制限、屋上広告の全面禁止などを織り込んだ厳しい条例が施行された。各地域の景観取材を進める中、よい方向に動き始めたことを実感できるようになった。「美しいまち」は何よりも、住民に生活の豊かさを実感させてくれる。これに「おもてなしの心」が加われば、訪問者も自ずと増え、地域活性化にもつながる。

足掛け4年にわたる「景観によるまちづくり紹介」の連載、ご覧いただきありがとうございました。日本のあちらこちらで景観づくりが進展することを期待しつつ…。 (太田正美)

    
  

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