第3回 スローライフ
2005.9.20
①なぜスローなのか
2003年8月24日岐阜市に20の市町が集合し、「スローライフまちづくり全国都市会議」を開催した。そこで「スピードや効率性を重視しつつも、一方では一人一人がより人間的に、より自然に、ゆっくり、ゆったり、豊かなこころで生きていけるような社会づくり、"スローライフなまちづくり"が不可欠」との主旨の岐阜宣言を採択している。
他方、比較的小規模な35市町村(2005年5月現在)による「スロータウン連盟」も立上げられており、「自然のリズムなど多様な時間軸を認め、万事手間隙をかけて物事を深く追求し、保存・再生に重点を置く」との考え方をとっている。同時に、スロータウンを地域活性化の起爆剤として利用することを企図している。
団塊世代がこれまで過ごしてきた時間の大半は高度成長期であり、スピードや効率性が善、かつすべてであった。だからこそ、このアンチテーゼとして、今「スローライフ」なる考え方が、クローズアップされつつあるのではないだろうか。但し、スピードや効率性を否定するものではなく、これらと共存させる、共存すべきという概念である。
そもそもスローライフとは、スローフードから派生したコンセプトであるが、スローフード運動は1986年、フランスとの国境に近いイタリア北西の山間部に位置する小さな町ブラで始まった。同じ頃ローマにマクドナルドのイタリア1号店が開店し、食文化に大いなる誇りを持つイタリアにとっては、アメリカのハンバーガー文化は、容易に受け入れ難かったのではないかと思われ、論議を呼んだようである。ハンバーガーに代表される"ファーストフード"の反対語として"スローフード"なる言葉が使われたようである。ちなみに団塊世代はアメリカ文化に強く影響されており、ハンバーガーも大好きである。
現在、かたつむりをロゴに使用するスローフード協会の支部は、世界45カ国に存在し、会員数は83,000人である。日本には32の支部があり、会員は約2,200人。
発祥の地ブラは、元々ワイン、トリュフ、チーズ、ビーフの産地であり、土地のものを美味しく食べる環境が整っていたが、このことがベースとなりスローフードの活動指針として、「郷土料理や質の高い小生産の食品を守ること」「良い素材を提供してくれる小生産者を守ること」「消費者に味の教育を進めること」の3つが掲げられている。
いずれにせよ、人生80年時代、人生スパンが一昔前より長くなっており、団塊の世代はスローライフを真剣に考え始めているのではないか。
②スローツーリズム
スローフードから派生したスローライフの考え方の延長線上に、時間消費型の団塊世代が好むであろうスローツーリズムがある。団体ではなく、夫婦または極めて少人数の仲間で行くツアーとなる。
冒頭で紹介した岐阜市は「長良川流域スローツーリズム」と称するモデルを提示している。従来型の1~2ヵ所を短時間で見て回る点の旅行ではなく、長良川流域2市4町にまたがる部分を面でとらえ、「居れば気持ちがゆったりとする、いい気分を味わえる」ツアーにすることを理想とし、時間をたっぷりかけて一帯を楽しんでもらおうという計画である。具体的なイメージとしては、『岐阜市周辺に残されたまち並みを歩き、鵜飼などの本物を感じる文化に触れ、名水百選に選ばれた長良川の水が育んだ酒を流域に点在する酒蔵で楽しみ、豆腐・醤油・うどんなどの食材の生産現場を訪れ、これらを食する。また地域の住民ボランティアからの説明を受けると同時に交流を図る…』といったツアーが検討されている。この形態のツアーはまた地域住民にとり、自分たちの住んでいる長良川流域の良さを再発見できるという副次的効果をもたらすことになるとともに、長期に滞在することからの経済的効果も期待できる。
海外へのスローツアーについてはいくつものモデルが考えられるが、例えば、まずスローフード発祥の地イタリアのブラに長期滞在するツアーはどうか。ここではワイン、チーズ等現地にて生産されたものを現地スタイルで徹底的に楽しみながら、何故この地でスローフード運動が始まったのか考えてみる。このツアーの場合、帰路ローマとかミラノとかには、あえて寄らない方がよいかもしれない。折角の"スロー"が"ファースト"になってしまう。
次に、なんと言っても南フランス・プロヴァンス。ここではヴァカンスを楽しむというより、上記長良川流域計画のようにこの地方の文化・歴史に触れ、住民の生活様式を学び、地域の新鮮な食材をプロヴァンス風に料理していただく。もちろんあちらこちら移動せず、まとまった時間を一定地域で過ごすことがポイントとなる。日本では同じコンセプトのツアーを、沖縄で試みることができるのではないか。
日本に古くからある"湯治"なども、単なる病気療養ではなく、より前向きな健康管理的な視点に変えてみると、スローツーリズムの一つではないかと思えてくる。大きく気分転換を図る意味から、ドイツでのクアハウス長期滞在ツアーは団塊世代にどうとらえられるだろうか。バーデン・バーデンのような高級な所から、リーゾナブルな所まで、ドイツにはBad(温泉)は数多く存在する。このツアーでは明日の活力のための、心身のリフレッシュが主目的となる。
③スローライフを実感する旅
考えられる団塊世代向けのスローツアーを②でみてきたが、要するに、日常ではなかなか体験できないスローライフを、旅という手段を利用して実感するのがスローツーリズムと言えそうである。
時間を気にせず本物の良さをじっくり味わうこと、地産地消、すなわち現地の新鮮で安全な食材をその場所で楽しむこと、土地の文化にゆっくり触れ地域の良さを知ること、地域住民と対話・交流すること、結果としてこころの癒しが感じられること、等々がスローツーリズムのポイントである。これらすべてでなくとも、例えばスローツーリズムの原点であるスローフード=食にこだわった「土地の料理をゆっくり楽しむことだけを目的としたツアー」はどうか…。(太田正美)
<参考資料>
「見えない若者市場より見えている団塊市場を狙え!」(井徳正吾 はまの出版)
「都市型シニア・マーケットを狙え」(山崎伸治 日本経済新聞社)
「nikkeibp.jpビジネススタイル」(web)
「スロータウン連盟」(web)
「スローライフまちづくり全国都市会議」(web)
「岐阜市・長良川流域スローツーリズム」(web)
「筑紫哲也・スローライフ多事争論」(web)
「Slow Food」(web)
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