第28回 一筋縄ではいかない(最終回)
2007.10.20
① 十人十色 昨今団塊世代向けにさまざまなジャンルの商品販売が試みられているが、なかなかヒット商品と呼ばれるものにならない。これは商品開発が間違っていると言うより、団塊世代のニーズが予想以上に多岐に渡っているからではないかと思われる。団塊世代を一つの"塊(かたまり)"とみなしたマーケティングは概して成功しない。約680万人の中身は千差万別であり、それぞれの価値観も極めて多様化している。趣味や楽しみも十人十色と多彩である。十人十色どころか、一人十色の団塊世代も少なからず存在する。
旅行も例外ではない。かつて主流であった団体旅行から、限りなく個人旅行へ大きく変質してきており、この流れは旅行慣れしている団塊世代には特に顕著に現れてきている。お仕着せの団体旅行に対しては、"No!"を突きつけるケースが多くなるのではないか。これに代わって「旅行のカスタマイズ化」、すなわち一人一人の嗜好に合ったツアーへの希求が強くなる。多大な労力はかかるが旅を提供する側も、団塊世代向けには"少量多品種のツアー"を継続的に市場に提案しなければならないのではないか。
とにかく団塊世代は、他人とは違うもの、違いをアピールできるものを好む傾向を強く有している。大ヒットものより、そこそこヒットしているものを敢えて選択したりする。旅行についても同じであり、結果として極めて個性の強い、多様化した旅行スタイルを見せることになる。
例えば、一番人気がバルト海・北欧地域、次いでアジア、地中海・エーゲ海となっている海外クルーズ。高価ではあるが非日常性を味わうには格好のツアーであり、団塊世代の選択肢の一つとなるのは間違いない。しかしながらこの世代、他方では安上がりなウオーキングを楽しむツアーに出かけたりもする。
② お楽しみはこれから これからの団塊世代には、何しろ十分過ぎるほどの時間が生じる。時間に制約されることのない自由な旅行を、自ら作り楽しむことができる。アメリカにおいてネット上で販売される旅行商品の90%を占める、と言われるダイナミックパッケージが日本でも稼動し始めている。主として旅行手段と宿泊施設をネット上で自由に選択できるところがポイントであり、データ量が多くなり、選択肢が増加すれば自由度の高い旅行が可能となってくる。団塊世代の利用頻度も高まるかもしれない。
ただし、ダイナミックパッケージと言えども、所詮はパッケージツアーの一種であり、団塊世代のニーズを満足させないケースも出てくるのでないかと思われる。何せITに強いこの世代、航空機に加え、鉄道、船、長距離バスなどの交通手段の予約から、一歩進んでオペラ、ミュージカル、コンサートなどのチケット購入、さらには行きたいレストランの予約まで、直接それぞれのウェブにて手配してしまう能力がある。もちろんパッケージに比較し高価な旅行とはなるが、こだわりの旅行を志向する団塊世代にとっては、その満足度が高ければ躊躇しない。
最近国際ローミング携帯の需要が急増しているとのことである。当携帯を使用すれば、国内と全く同じように海外から日本の留守家族へ通話ができ、メールのやりとりも可能である。ITフレンドリーな団塊世代からの利用者は、増えることが想定されるが、個人旅行には大きな安心感を与える。もちろん訪問先の国々でも自由に使うことができ、ホテルやレストランの予約確認など、国際ローミング携帯が一台あれば事足りる。夫婦で持って行けば、迷子にならないよう互いの連絡に使用することにより、別行動を楽しむことができる。
自分らしさを殊のほか大切に考える団塊世代は、レディーメイドのツアーでは満足せず、あくまでも"自分のための旅行"にこだわる傾向が強い。セカンドライフに突入するにあたり、自分の本当にやりたかったこと、今後やりたいことを10~20個リストアップし、これらを一つずつ、旅行を通して実現していくことも一つの方法ではないかと思われる。この際、観光ガイドブックとは別に、旅行先に関する紀行文や小説などを予め読んでおくと、個性豊かな旅行がますます個性的になるのではないか。ピーター・メイルの「南仏プロヴァンスの12か月」、妹尾河童の「河童が覗いたインド」、宮本輝の「ドナウの旅人」などはどうか…。団塊世代各人の旅のお楽しみはまさにこれからである。
③ やはり、一筋縄ではいかない 「団塊のツアーとは」と題したレポート、第1回では団塊世代の特性を概括した。まだまだ元気であること、先輩世代とは異なる消費に対する考え方、プライド・自己主張・知的好奇心の強さ、質・ゆとりを重視する傾向、夫婦関係、地域との関わり…などである。また、第2回から27回にわたり、団塊世代のツアーが具体的にどのようなものになるのかにつき、さまざまなキーワードから見てきた。いずれも当該世代が「実際に興味を持ち、実行に移す可能性が高い」のではないかと推察されるツアーを取り上げた。
ノスタルジー、スローライフ、地産地消、趣味を極める、学習する、LOHAS、健康力向上、まち並みを歩く、景観を楽しむ、世界遺産を訪ねる、スポーツをする、農業体験、ボランティアを学ぶ、ロングステイ、ホームステイ、ゆとり・癒しを感じる、本物に触れる、身近な環境問題への関心、田舎のよさを味わう、ルーラル・ツアー、チャレンジするツアー、季節の花を観賞する、伝統行事を見る、遊びに徹する、食と宿にこだわる、アメリカ文化に再度触れる、新しいものを見に行く、うんちくを深める、希少価値を見出す、古代遺跡めぐり、大自然に感動する、野生動物と触れ合う、旧東欧の変化を見る、アンチエイジング、デトックス、ガイドの説明を楽しむ、美術館めぐり、映画ロケ地訪問、プチ・リッチな旅、節目節目の贅沢な旅、歴史ロマンを尋ねる、文明発祥の地、セカンドライフを充実させる、地球温暖化問題を考える、ニッチにこだわる、ハワイ回帰、100選にこだわる、産業遺産見学、大都会を満喫する…、などがキーワードであったが、もちろんこれら以外にも団塊世代が志向する旅には無限の可能性がある。
ひとくくりにされたくない団塊世代、人口的には確かに大きな塊であるが、中身は極めて多様性が高く、他の人と同じことはしたくないとの欲求が強い。このように強がっている反面、弱い部分も持ち合わせており全くつかみどころがない。
旅行に関しても、これまで見てきたように型には嵌まらない。しかしながら、以前にも増して「満足度」なる尺度を重視し、その深さを求めるようになるのはどうやら間違いない。団塊世代、やはり一筋縄ではいかないようである。 完
<<連載を終えて>> 協調性を強いられた会社時代を終え、団塊世代はこれまで抑え気味にしていた個性を、今後思い切って活性化することができる。他の世代からは"わがまま"と映るかもしれないが、高いプライドを持ったまま各人の個性を露出していくものと思われる。まだまだ元気、ヤング・アット・ハートであり、変化にも前向きである。あれもこれもやりたいことは山ほどある。元来禁欲的ではなく、価値さえ見出すことができればお金は使う。新しい波を巻き起こすエネルギーも全然衰えていない。たとえ黄金の十年とはならずとも、燻し銀の十五年にはしたいものである。
「団塊のツアーとは」は2年数ヶ月にわたる連載となりました。ご愛読いただきありがとうございました。
(太田正美)
<参考資料> 「ワイルド・アット・ハート」(東洋経済新報社 ロバート・ハリス)
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