日航財団 インタビュー2

吉野源太郎氏「景観対談1」

吉野源太郎氏「景観対談2」
青山俊樹氏「景観法とは」 平井孝志氏「水の惑星の住人」
下村満子氏「朝日ジャーナル編集長まで」 下村満子氏「経営者への転進」
米原万理氏「外国との遭遇」 米原万理氏「外国語の学習方法」
石井幹子氏「照明デザイナーへの道程」  
   
 



景観対談・その1・第2部(市民の出番が・・・)

 吉野源太郎日経新聞論説委員vs. 近藤 晃日航財団理事長

           

住民の動き…芽生えは始まったか

小布施町

K.日航財団ではこの4月からホームページを開いて、品川区、小布施町、栃木市、次に双海町と各地のまちづくり状況を紹介しております。
どの地域にも共通しているのは、熱心な数人の人がいて、彼らがリードし、どんどん動いているということ、とはいっても住民を巻き込んでやらないとなかなか成功しないようです。
全体からすれば何パーセントという微々たるものかもしれませんが、芽生えは力強く始まっている、という印象を持ちました。

Y.しかし、このような話の一方で、「すぐに成果が欲しい。どれだけ客が増えてどれだけ金になるか、売り上げがどれだけ増えるのか」こういう疑問が必ず出てきます。とりわけ観光に関してはそうした傾向が強く出ます。さらに、「美しいものを守るためにアーケードや看板を撤去した方がよい」という話になっても、現にそこに住んでいたり、そこで商売をしている人の将来の生活設計、例えば息子に商売を継がすかどうかとか、建物を売って自分の老後をどこで過ごすかとか、切実な問題に迫られている人々にとって、それが一体どういう結果をもたらすかというところまで話さないと計画として完結しないのです。
いろいろな所で美しい街をつくろうという芽生えは出てきているのですが、それはまだ、こういうやり方でこうやったらいいよというビジョンを描けるようになったという段階の話です。少し厳しいかも知れませんが、本当に街に根付き、次の世代もそれを支持していくものにするためには、その芽生えの段階からもう一歩進んでいかなければならないのではないかと思います。

K.今の問題を整理すれば、第一に、そこの街で、もっときれいな街に住みたいという人たちの数が、そういうことに反対だという人の数を凌駕すれば、変えようということなる。第二に、長期的にはそうした方があなたの将来にとって得なのですよ、という説得をする。この二つのプロセスを経ていくのじゃないかなと、お話しを伺っていてそんな気がします。

Y.ポイントは二つあって、一つは、景観法ができれば、自治体は例えばこの地区はすべて青い色の屋根にしようというような規制を、全員一致でなくても、つまり反対する住民が3割4割いようと、つくることができるようになる。それだけの権限を持った、やればできるという話です。
もう一つは、住民自身がどう変わっていくのかということです。私が期待をかけたいのは、Uターンでもいいし、脱サラで帰ってくるのでもいい、若い世代、若いというのはここでは50才台でもいいのですが、新鮮な感覚をもった人が増えることが望ましいのです。若い世代が増えないと未来のビジョンが描けません。景観の問題は、パブリックなレベルで皆と話し合い、説得し、まとめていきましょうということになると、そこにどれだけの情熱、エネルギーを割けるか、どれだけ余力があるのかということになりますので、お年寄りにはどうしても限界があると思うのです。

身近でできることをEncourageする

K.では、今後どういう風にしていけばよいのか、という話に移るとしまして、一応の整理としては、機は徐々に熟しており、問題意識をもった人も増えてきているので、各コミュニティで景観運動を始めた所を誉めて宣伝してあげる。つまりEncourageしてあげること、これが一つ目です。
二つ目は、その宣伝を通じて、なんとなく問題意識を持ってはいるが、まだ行動に至っていない人の心に火を付けて回る。これはTidy Towns Competition の真髄ですよね。この二つを一歩一歩やっていくこと、これが今後の方向かな、という気がします。

栃木市

Y. 今の話をさらに掘り下げてみた場合、身の丈にあった分相応な地域のあり方、それをやっていくのだというところに話を持っていかなくてはいけないと思います。背伸びしない、一攫千金を狙わない、産業化ということをなるべく言わないということです。Encourageする、みんなに大事だと気付かせていくことの中身が、明日はバラ色のわっと儲かる世界があるぞという話だと、うけはいいかもしれないが、必ず失敗します。それが過去の教訓です。自分の街にしかないものを育てるというのは案外、地元の人たちには難しいことなのです。

K.Encourageし、まだ始めていない人に、始めてみようかという気を起こさせるには、いろいろなことをしなければいけないのでしょうが、マスコミの力というのは相当重要なのじゃないかと思われますが。

Y.今のお話にあったようなことを、ずっとこれから先、今までよりも多くの紙面を割いて、地道に掘り出し評価していかなくてはならないと思います。

K.景観問題というのは、10年、20年かけてやっていく問題だと思います。50年かけて壊してきた訳ですから、直すのに10年、20年かかるのは当然ですよね。マスコミの方もじっくり腰を落ち着けてやっていくということなのでしょうか。

日航財団の取り組み、夢…

双海町

K.日航財団も、これは30年ものだ、という思いで取り組もうとしているのですけれど、問題が大きくてどうやったらいいのかよく分からないので、まずはこの4月からホームページを開いて、毎月1地域ずつ、住民が主体的に活動をしている所を紹介して、皆さんに知っていただき、その過程で知恵をつけて、今後どうするかということを最初の1年は考えていくことにしています。
第二段階は、コンテストみたいなことを…。日本でも3団体くらいがそれぞれでやっているようですが、あまり知られていないようなので、この辺と連携をとりながら、日航財団が何かお役に立てないかなと。
第三段階としては、長期的方針というか夢ですが、対象をアジアに広げていったらどうか。その心は、ヨーロッパも日本も過去景観問題で失敗して修復しようとしているのですが、同じような問題はアジアにも起きると考えているからです。日本もかつて環境問題で失敗して、修復してきている訳ですけれども、アジアはそれを学習してより早く克服しています。景観問題もより早く手を打った方がいいですよね。そういう意味でアジアに広げるというのは、夢みたいな話かもしれないけれども、日本の失敗を繰り返さないで欲しいというアドバイスをしてあげるのは、とても意義があるのではないかという気になってきました。これは国際的な日本航空の財団がやる仕事としては非常に意義があるということで…。まさに夢の中の夢なのですがそれが三つ目です。

Y.それは素晴らしいですよね。アジアの話、立派なお仕事で是非やっていただきたいと思うのですが、実は観光に関してはずっと向こうが上です。シンガポールもタイも訪れる観光客の数は日本より上ですよね。韓国も中国もしかり、むしろ教えてもらわなければいけない。彼らにとって街をちゃんと造ることが、インバウンドにとってどれだけの効果があるかは、京都と同じで実感できる訳ですよ。でも、実際に動き始めればかなり反応があると思います。

アイルランドはゴミ拾いから始めた

K.Tidy Towns Competitionの歴史を聞いていると、最初は観光立国だということで、ゴミ拾い運動から始めた。それが、事の本質は、住んでいる人が、より気持ちのいい所に住みたい、それをより美しくして、子孫にバトンタッチしていこうというように変わった。観光というのは副次的になり、結果として美しくなった所を見るために人々に来てもらえる、こういう風に変わってきた。どのような経緯で、どう変わってきたか研究してみる必要がありますね。

Y.アイルランドでは、確かに最初は観光客に恥ずかしくないようにとゴミ拾いから始めました。それだけ街が汚かったわけです。所轄官庁も最初は観光庁でした。しかし、途中でそれだけでは限界があると気付いて環境省の所管に移るのです。言い換えれば、明日の飯の種より街づくりだという話になったのですが、我々から見ると飛躍なのですよね。儲け話をしていたのが違う事業になってしまうのですから。しかし彼らはなんなくその壁を越えてしまう、これはカルチャーとしか言いようがないのではないでしょうか。人生の根底に生活する場所があって、生きる場所を犠牲にしてまで、飯の種を考えるということはあり得ない。どうしてそういうことになったのか、ということを日本人が理解できるかどうかはかなり重要な点でしょうね。

K.昔の日本人はそれを持っていたのでしょうね。どこで失ったかということでしょうね。一方、東京に来た、故郷を失った人たちも、そろそろ自分のまわりで、故郷じゃないかもしれないけれど、もう少し美しい所で生きようじゃないか、という気持ちを持ち始めた。私の周辺でも落ち葉拾いというようなものも含めて、いろいろな運動が始まっている。こういうものもEncourageして、「美(うるわ)しき日本の国」へつなげてゆきたいですね。
<完>

<余談>

K.最近「新黄禍論」という造語を作ったのですが、黄色くて醜い看板がどんどん増えている。
カラーコーディネーションをきちんとすれば、景観問題の半分以上は片付くのではないかというのが私の感じですが、看板をはじめとする、色彩上の取り組みというのを景観法の成立とともに、一刻も早く全国的に始めて欲しいという期待があるのですけれども。

Y.これは、景観条例をやっている所では、既に相当手を付けている場合があります。
例えば、函館でも市の中心部にできたパチンコ屋の外壁が計画では黄色だったのを、市がチェーンの本部にかけあってベージュ色に変えさせた。相手は客商売ですから醜悪な建物を造ったと地元に批判されると困るので、結局は言うことを聞きました。このように地元がていねいに意見を言えば変わるケースは多いのだろうと思います。今までは地元の方も無責任に、あるいは問題意識もなくなすがままにしていたことが多かったのではないでしょうか。

K.景観に対する市民の感じ方、考え方も、変わってきつつあるような気がしますね。

金沢

Y.通産省で始めた中心市街地活性化法の対象地域が400くらいあります。ほとんどが箱物造りにこだわって失敗しましたが、なかには成功例がいくつかあります。それが全部、景観をテーマにして美しい街並みを造ったところなのです。京都、金沢、長浜とか川越とかがそういう実例です。あとは全滅です。街を活性化するためには景観というのは絶対に欠かせないのだ、という答えが既に出ているのです。これらの都市では中心市街地活性化法以前から、長い時間をかけて街づくりに取り組んできました。景観を核にすえた街づくりには最低10年必要です。いきなりそれをやったからといって、翌年成功しましたというそんな話は絶対にないのです。

(2004年9月)



財団法人日航財団のホームページに掲載されている個々の情報の著作権は、特に記載のない限り、すべて当財団に帰属し、日本国の著作権法及び国際条約による著作権保護の対象となっています。当財団ホームページの内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権法上認められた行為を除き、当財団の許可なく引用、転載、複製等はお断りします。なお、引用等を行う場合には、適宜出所を明記してください。当財団ホームページの内容の全部または一部について、日航財団に無断で改編を行うことはできません。



〒140-0002 東京都品川区東品川2-4-11 JALビルディング 財団法人 日航財団
Copyright©2004 JAL FOUNDATION. All Rights Reserved