カッパドキアからサフランボルへ

 サフランボルへは、ユルギュップからネヴシェヒル・オトガルに出て、長距離バスで先ずアンカラに、バスを乗り換えてサフランボルに至るほぼ一日の長旅である。アンカラへはアクサライ経由で300km、アンカラ・サフランボルは230km、530kmを8時間半かけて走る。ネヴシェヒル発08:30、アンカラ着13:40、アンカラ発14:00、サフランボル着17:00というスケジュールである。ネヴシェヒルからアンカラまでは中部アナトリアのど真ん中を行く。既に述べたアナトリアの褐色の世界が真直ぐな高速道路の両側延々と続くのである。時折、小型トラクターと二、三人の人々が道路わきに立つ。バスは速度を緩めてその中の一人をピックアップする。ドアがしまって残された人達は手を振って別れを告げて、トラクターで帰ってゆく。「行っていらっしゃい」なのか「さようなら」なのか。彼等の背後にどんなストリーがあるのか、そんなことに頓着なくバスは高原の真直ぐな道をずんずん進んでゆく。アクサライを過ぎて暫くゆくと、バスの左手前方が白ずんで来る。曖昧なもやもやとした白さが蜃気楼のようである。トルコ第二のトゥズ湖に差しかかった。この湖は塩湖なので白く見える。乾燥の激しい夏は水分が蒸発すると浅い湖底が露出して白く塩に覆われた部分が拡張する。湖に近づくにつれてふわふわとした感じの白が堅牢な感じに変わった。バスはこの白い湖沿いを60~70kmも走る。そしてなだらかな坂を登るとアンカラは近い。

 アンカラは起伏の多い台地にトルコ首都として急速に発展してきた町だ。トルコ共和国建国(1923年)の際の人口6万が現在は320万に膨張している。高原に大きなピカピカした町が突然現れたといった感じで、今まで見てきたどの町よりも人工的というか「造りました」という印象が強い。だからといって全く新しい町ではない。その歴史は石器時代にまで遡る。しかし、私にとってアンカラはバス乗り換え中継地、乗り換え時間はわずか20分しかない。バスの窓からきょろきょろと街路を眺めてはいるが、気持は既に乗り換えモードに入ってしまっている。幸いバスは時間通りに到着できそうである。

 到着するや否や荷物を引き取って、一階の到着フロアから二階の出発フロアへ急ぐ。やけに大きなオトガルだ。出発便電光表示板でサフランボル行バスのゲートを確かめて、ふぅふぅ言いながら出発5分前にゲートに到着、再び荷物を預けて乗車するとバスは走り出した。定刻運行は日本の鉄道並みではないか。素晴らしい。しかし乗り遅れていたら、「何でトルコで定時発車なんだ」と恨めしかったに違いない。海抜850mのアンカラからサフランボルまで落差約350m下る。しかし間には山系が横たわっていて、この山系が、丁度日本海側と太平洋側を隔てるように、乾燥したステップ気候のアナトリアと湿った黒海沿岸を隔てている。アンカラの郊外に出ると道路はやや急な登りになる。最初の山系を越えて進んでゆく。そして下る。この辺りから、褐色の山肌には樹木が目立ち始める。このアップダウンを3~4回繰り返したと記憶している。山の緑はアップダウンを繰り返すごとに深まっている。黒海からの湿った空気が乾いた高原の空気に取って代わりつつあるのが明らかである。黒海の空気とアナトリアの空気が半々に混じりあったあたり、陽が低くなり影が長くなった頃、バスは進路を東に変えた。後8kmでサフランボルである。

伝統家屋①

 サフランボルのオトガルも新市街の外れにある。新市街は高台の上にあって、旧市街は新市街から東に2kmの谷間にある。新旧市街はそれぞれ別の町といってよいほどに様相を異にする。勿論オスマン時代の伝統家屋が残るのは旧市街であり、見るべき旧家はそこに集中している。宿は旧市街の中心にある隊商宿ジンジハンを改造したというホテルにとっておいた。安っぽいロマンティシズムと笑う向きもあろうが、隊商の香りでも残っていればと敢えてジンジハンにしたのである。タクシーは砦のゲートのようなホテル入口で停まった。とてもホテルとは思えない高さ15mほどの石造りの建物が街の一角を占めている。ホテルというより牢獄といった感じで、宿泊客を何がなんでも守るという決意を建物に現わしたというほどに堅牢に見える。多分、隊商を狙う盗賊などの襲撃に耐えられるよう作られたのだろう。

伝統家屋②

ゲートをくぐると直ぐに広い中庭がある。外壁に密着して宿泊施設があって、外壁に囲まれた内部はがらんとした空間である。その空間が中庭となっていて、キャンバスの日よけが中庭の半分ほどを覆っている。石の冷たさに加え、中庭は閑散としていてホテルの華やかさは微塵も感じられない。中庭を横切って、昔の鉄道駅の切符売り場のようなところでチェックインを済ませ、急な石造りの階段を昇り、客室に落ち着いた。客室の入口は高さ1mちょっと、腰を屈めて入室すると、裸電球に照らされた薄暗く狭い部屋が現れた。隊商宿であった時は厩であったような気がしてならない。予めインターネットで調べて予約したのだが、値段とイメージの双方が現実とかけ離れすぎていている。要するところ、隊商になりきって一泊を隊商宿で過ごす体験ツアー宿としては絶好なのだろうが、一般観光客を相手にするホテルとしては隊商体験が濃厚過ぎるのである。場所もよし、隊商宿であったユニークさもあり、将来サフランボルを代表するホテルに変革できるポテンシアルは十分ありと判断した。なにやらホテル・コンサルタントのホテル評価のようになってきた。この辺で止めにしておこう。(続)



〒140-0002 東京都品川区東品川2-4-11 JALビルディング 財団法人 日航財団
Copyright©2008 JAL FOUNDATION. Al Rights Reserved