スルタンアフメット・ジャミー

スルタンアフメト・ジャミースルタンアフメト・ジャミー

 アヤソフィアの南に隣接して壮大なモスク、スルタンアフメット・ジャミーがある。そのドームとミナレット6基は、海を隔てたウシュクダル、カトギョウイの街、金角湾を隔てたガラタ塔からも遠望できる。トプカプと並んでオスマン時代の代表的建造物であり、今でもモスクとして祈りの場を提供している。このモスクの内部はイズニックタイルを20,000枚以上も使って装飾されている。イズニックタイルは青の美しさが特徴で、そのことから「ブルーモスク」と別称されている。スルタンアフメット1世は、不祥事が続いたことからアラーの神を慰撫するため、ビザンティン宮殿の跡地にこのモスクの建立を命じ、モスクは1616年に完成した。しかし、既に述べたとおりアヤソフィアはモスクに改修され、16世紀半ばにはシュレイマン大帝の命により、当時最高の建築家として尊敬を集めたミマール・シナンがシュレイマニイエ・ジャミー、リュステム・パシャ・ジャミーを建築し、イェニ・ジャミーの建設も開始されていた。このように壮麗な大モスクの建築ラッシュが続く中、しかもアヤソフィアの隣に、他のモスクを凌駕するモスクの建立を命じたのである。かつ、従来、モスクの建設費用は戦利品から賄われていたが、スルタンアフメットには注目に値する戦争勝利がなかった。従って、このモスク建設費用は国庫から支出されたようである。これが高位モスレム法学者(ウレマ)の怒りをかったとも伝えられている。いずれにしても凡夫には計り知れない経緯や発想があって、このモスクの建立を決めたに違いない。日本では関が原の戦いを経て、江戸幕府が開かれた頃のことである。メフメット2世がコンスタンティノープルを陥落させビザンチン帝国が滅びてからほぼ150年、その間、レパント沖海戦(1571年)でキリスト教連合艦隊に破れたことはあったものの、依然としてバルカン、ハンガリー等を征服し、領土拡張は続いていた。
 6基のミナレットについては面白い逸話がある。スルタンはミナレットを「黄金」に彩色するよう命じたが、建築家のメフメット・アーが「6」基と聞き取った(黄金=アルトゥン、6=アルトゥ)。そして、6基のミナレットが現出したという。当時、6基のミナレットはメッカのカアバ・モスクが有するのみであった。メッカの由緒あるモスクと同じ数のミナレットを作ったスルタンの厚顔ぶりが非難され、スルタンは7基目のミナレットをメッカのモスクに寄進して、事なきを得たそうである。蛇足になるが、トルコには6基のミナレットを有するモスクはアダナにもう一つあるとのことである。
 正面入口を入ると美しく整備された中庭がある。既にその辺りから入場の列が出来ている。モスクの壁に沿って、水道の蛇口が並び、その前には簡易な椅子が置かれている。礼拝前に口を注ぎ、顔と手を洗い、靴を脱ぎ足まで洗い、身を清めてからモスクに入る。礼拝はモスクの中に信者がぎっしりと並んで行われる。礼拝者全てが足を清めるわけではないが、前列の臭い足に額をつけるような礼拝は堪らないから、顔や口を清めること以上に足を清めることが求められに違いない。

モスク内部モスク内部

 ガイドブックによれば、大ドームは高さ43m、直径27.5m、それに付属した4つの副ドーム、30の小ドーム。収容人数10,000とある。寺社、教会に礼拝した経験はあるが、モスクは始めてである。モスク内部は、壁はイズニック彩色タイル、採光窓とステンドグラスそして大書道家セイド・カシム・グバリ筆になるコーランからの引用詩歌で飾られている。タイルはイズニックで焼かれたのだが、その値段は固定されたままで値上げは認められなかった。建設中、コストが上がって品質を維持できず、建設後期のタイルは、赤は茶色に変色し、青は白色の斑が生じてしまったそうだ。また、一部はトプカプ宮殿ハレムのタイルがリサイクルされた。漢字文化圏には文字を美しく書くことを芸術にまで高めた書道がある。イスラム文化圏にもそれがある。Calligraphy(書道)はモスクを飾るまでに深化した。絵画や彫刻での装飾が困難なイスラムの人々は、書を以ってそれに代えたのである。
 モスクは基本的には簡素な構造である。ミフラーブとミンバルを備えてはいるものの、広い体育館のような祈りの空間がその全てと言っていい。教会や寺のような祭壇、像物もない。絵画も彫刻もない。ただ壁面に幾何学的装飾あるのみである。ある意味では純粋で、終始神への祈りあるのみ、それがイスラムの教えなのだろう。その純粋さに一寸怖さを覚える。しかし、モスクは私の持っていたイメージとは少々異なって、寺社や教会に感ずる荘厳さとか心の和みといった感じは生まれなかった。このジャミーが観光化していて、絶え間ない人の流れがそうしたのかもしれない。早計に結論する前に、エザンに誘われてモスクで祈るイスラムの人々と祈りを共にすべきであることは間違いない。(続)



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