トプカプ宮殿(その1)

 トプカプ宮殿はアヤソフィアの北、ボスポラス海峡、金角湾、東にマルマラ海と三方を海に囲まれた丘の上に立つ。70万㎡に及ぶ広大な敷地を占め、敷地内には古代ギリシャ都市、ビザンチオンのアクロポリス(高丘城砦)が残っていたそうだ。オリエントエクスプレス急行終着駅であったシィルケジ駅近隣、海岸沿いの鉄道、道路などは往時宮殿の敷地内にあり、最盛期宮殿は4000人の人々の生活の場であったと言う。トプカプからの眺望は実に素晴らしく、ビザンティンがこの岡にアクロポリスを建てたことは成程と頷ける。ガラタ橋からベイオウルの新市街、桟橋に係留された地中海クルーザー、ボスポラス海峡、マルマラ海を往来する貨物船、イスタンブールと近郊の港を結ぶ連絡船そしてウシュクダル、カトギョイなどアジア側の展望。宮殿はここぞイスタンブールといった場所に建設されている。
 コンスタンティノープルを陥落させた後、メフメット2世はトプカプ宮殿の建設を命じ、1478年頃に建設を完了した。それまで宮殿は現在のグランドバザール近くにあった。これを旧宮殿と呼び、新装成った宮殿を新宮殿(イェニ・サライ)と言っていたが、19世紀にスルタンがボスポラス海峡のドルマバフチェ宮殿に居を移した後、岬の先の「Topukapi Gate(大砲の門)」(現存しない)の名を取ってトプカプ宮殿と呼ばれるようになった。オスマントルコの拡張につれ増大した富と栄光の象徴として、かつ、実質的にハレムや執政機関が膨張するにつれ、また、地震による崩壊や火災による焼失の都度、当初の宮殿に増改築が施されて現在に至っている。しかし、17世紀末以降、スルタンはボスポラス海峡沿いの新しい別殿に居住することを好み、トプカピは徐々にその重要性を減じ、スルタン・アブドゥル・メジトがドルマバフチェ宮殿に恒久的に居を移した後、その機能をほぼ喪失してしまった。現在は博物館として一般公開されている。
 宮殿の敷地は外壁で囲われていて、アヤソフィアに隣接する城壁に宮殿の正門「帝王の門」がある。正門を入ると、儀式や催しのために主に使われていた「第一の中庭」である。宮廷に仕える人々や「ジャニサリー」と呼ばれるスルタン親衛兵が正装正列して、賓客を外廷の正門「挨拶の門」に導いたと言う。この庭までは、オスマン時代も現在も一般客が自由に出入りできる。

挨拶の門

 宮廷は公式行事や行政の行われる「外廷」、スルタンの公私の生活の場である「内廷」そして、スルタンの家族と女性の生活の場「ハレム」に分かれている。宮廷への入口、「挨拶の門」を入ると再び中庭がある。「第二の中庭」と呼ばれ、孔雀やガゼルが放し飼いにされていたという。この庭は廷臣の集まりや公式行事に使われていた。周囲には厩舎、議事堂、武器庫、厨房などの建物が並び、庭の下にはビザンティン時代からの地下貯水池が未だに残っている。中庭の正面には、内廷の入口「幸福の門」、そして、武器庫の脇にハレムへの入口がある。

議事堂入口

 議事堂は18世紀以降本来の重要性を徐々に失ったが、会議は原則として週に4回、夜明けの祈りの後開催され、帝国全体に関わる政治、財政、宗教やその他重要事項を検討決定した。スルタンは出席せず、会議の構成員はグランド・ヴェジエ(首相に相当)、軍、財務、外務、宗教等に関わる高官であった。厨房は常時800人の要員を抱え、4000人の食事を調理した。時には6000食も調理することがあったという。現在、厨房には陶磁器が陳列されている。トプカピの陶磁器のコレクションは世界有数だそうで、中国明宋代の白磁、青磁や日本の伊万里等、その数と種類は驚くほど膨大である。武器庫には日本の鎧兜も陳列されている。

幸福の門
謁見の間の入口

 「幸福の門」を入ると内廷である。正面に「謁見の間」、そして「アフメット3世図書館」が立ち、「第3の中庭」がそれらを囲み、スルタンの生活を支える諸施設(モスク、宝物庫等)が並ぶ。宝物庫には、宝石類を主とした宝物が陳列されている。金と宝石をちりばめたスルタン・ムスタファ3世の鎧、真珠をちりばめたコーラン、真珠貝と象牙を象眼した玉座、インドの金のオルゴール、鞘に三つの大きなエメラルドを埋め込み柄先に時計を付けた「トプカピの短剣」、翡翠の碗、銀地に49個のダイアモンドを二層に埋め込み、その中央に86カラット(世界第5位の大きさ)のダイアモンド(このダイアモンドは「匙屋のダイアモンド」と呼ばれている。宮廷の高官がバザールで購入したもので、売り手は二束三文の水晶と思って売ったとの逸話がある)など枚挙に暇がない。陶磁器や宝物はほんの一部が陳列されているとの事で驚くばかりである。宝物館参観者の長い列で、「トプカピの短剣」や「匙屋のダイアモンド」辺りではなかなか前へ進めない。「オォ」だ「アァ」だと嘆息する声が印象に残る。(続)



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