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バザールとイェニモスク(その2)
バザールには出入口が20あると言う。東側の入口の一つを通って高い丸天井の建物に入ると衣類を商う店が続くが、それが途切れて宝石・貴金属の店が並ぶ。この辺りがバザールの中心、イチ・ベテステンである。15世紀半ば、バザールはイチ・ベテステンとサンダル・ベデステニの二つに分かれていて、徐々にその周囲に店舗が集まりグランドバザールが形成されていったという。このような立派な建物を作りバザールとする発想に驚かされるが、裏返して言えば、バザールはそれ程に流通経済にとって重要な役割を占めていたのであろう。イチ・ベテステンは天井も高く通路も広く、当初から貴金属、宝石を扱う店が集まっている。サンダル・ベデステニには絨毯、衣類を取り扱う店が集積している。更に先に進むと、皮革製品、お土産、雑貨、布地、陶器、軽食堂等の店が溢れるように並ぶ。既に述べたように、周辺の店舗はエジプシャンバザールに及ぶまでに拡張している。大通りから路地に至るまで買物客、観光客でごった返していて、大袈裟でなくあらゆる言葉が飛び交っている。客引きは日本人と見ると日本語で陽気に声を掛けてくる。時には「放っておいてくれ」と思うほど執拗に迫ってくるのである。世界各国からの観光客の使う言葉を駆使して商売に繋げる逞しさに圧倒されてしまう。バザールは商魂と活力の潮といっていい。何処を歩いているのか頓着せずにブラブラする内に、丸天井の商店街を抜け、屋外の商店街に出た。ダラダラ坂を下るとモスクに突き当たる。金角湾入口に架かるガラタ橋を抱えるように建つイェニ・ジャミーである。そしてその裏がエジプシャンバザールである。グランドバザール同様屋根で覆われたエジプシャンバザールは、イェニ・ジャミーとほぼ同時期17世紀半ばに作られており、門前市場の色彩が強い。当時ベネチア人はエジプト交易に従事していて、このバザールでエジプトの産品、特に、香辛料を売ったという。かっては香辛料を扱う店が90程もあって、このバザールはスパイスバザール(香辛料市場)とも呼ばれている。今では香辛料店はほんの数えるほどで、取り扱われている商品はグランドバザールと大差ないが、より庶民的で、チーズ、果物、ドライフルーツ、鮮魚、お菓子等の食料品を扱う店が多い。
イェニ・ジャミーの中庭
人混みに疲れて、バザールの隣、イェニ・ジャミーの中庭の日陰に涼を取った。午後の祈りを終えた人々が中庭に三々五々集まって憩っている。普通、モスクは男性の世界で女性は余り見かけないが(勿論女性専用の祈りの場所はモスクの後方に設けられている)、このモスクにはスカーフを被り、足の踝までを覆う黒や茶のガウンを着た女性たちが多い。これはこのモスクの成り立ちに関係しているのかもしれない。それにはこんないきさつがある。このモスクはスルタンメフメット三世の母親サフィエ・ハトゥンの発願で1598年建設が始まったが、工事開始後直ぐに建築家の死に見舞われたこと、ハレムの新たな勢力の台頭や彼女がベネチア出身でベネチアの利益を優先し過ぎるとの批判等から、ハレムを追われ工事は放棄されてしまった。その後、スルタンメフメット四世の母、トゥルハンがモスク建設を継承し1663年モスクを落成させた。実に65年の歳月を要したのである。発願した人も落成させた人も共にスルタンの母であったことから「ヴァリーデ(スルタンの母)・モスク」と呼ばれるようになったのである。二人の女性が関わったモスクなので、女性は親しみを覚えるのであろう。それで女性の参拝者が多いのではなかろうか。また、「イェニ」は新しいと言う意味で、一番新しく建立されたモスクはイェニ・ジャミーと呼ばれるが、その名前は次々と新しいモスクに取って代わられる。しかしこのモスクは65年も掛かってやっと「イェニ・ジャミー」になったのだとの感慨を込めて、「イェニ・ジャミー」と今もって呼ばれているのかもしれない。新市街カラキョイから見ると、イェニ・ジャミーは金角湾、ガラタ橋と一体となってイスタンブールのエギソチックな風光を醸し出している。モスクはオスマンの伝統を象徴するとも思えるし、トランヴァイと車の途切れることのないガラタ橋や連絡船、漁船の行き交う金角湾はエネルギッシュな新イスタンブールである。新旧あいまったこの光景がトルコの現状を象徴しているようにも感じられる。(続)
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