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女性管理職ウィーン駐在記
2.オーストリア気質
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| Apfelstrudel mit Schragobers |
オーストリアの言語はドイツ語である。しかし、ウィーン訛だのオーストリア・ドイツ語だのと言われ、所謂標準ドイツ語とは違う。日本でドイツ語を勉強すると、通常はこの標準ドイツ語を学ぶことになる。つまり、挨拶はGuten
Morgen(おはよう)、Guten Tag(こんにちは)、Guten Abent(こんばんは)だ。しかし、オーストリア(ドイツ南部も)ではGuten
Abent以外あまり耳にしない。挨拶はGrüß Gott(グリュースゴット=直訳すると「神様ご挨拶」)である。このGrüß Gottは万能で一日中これで大丈夫。お店に入るときも、エレベーターで誰かと乗り合わせたときも、み~んな明るく“Grüß
Gott!”といたって単純。また、日本で学ぶドイツ語と異なる単語も結構ある。カフェでケーキをオーダーして日本のガイドブックにあるように“Mit
Sahne, bitte.”(生クリームを添えてください)と気取ってみたのに、運ばれてきたお皿の上にはケーキしかない!「あ~通じなかったか・・・」と嘆くなかれ!ウィーンでは“Mit
Schlagobers, bitte.”なのだ。ちなみにbitteは英語のpleaseのようなもので実に便利な単語だ。上記は英語ならば“With
cream, please.”だが、ほかにも「お先にどうぞ」とか「これ、どうぞ」と譲ったり手渡すようなとき、「お願いします~」という店員への呼びかけ、「えっ?」と聞き返す際、さらには、ありがとうに対する「どういたしまして」、これら全部bitteでいい。一日でbitteという場面はかなりある。Grüß
Gott、danke(ありがとう)、bitteが出来ればなんとなくウィーンに馴染んだ気分にはなれる。そういえば、ウィーン生活でドイツ語を覚えた(と、言えるほど出来るわけではないが)私にとっては、レジ袋といえばSackerlが当たり前だった。しかし「ドイツではTüteだったのよ。ところがここじゃ通じないの、Tüteじゃ」と、長いドイツ暮らしの後にウィーンに引越してきた日本人の友達が教えてくれた。せめてわかってくれてもいいでしょ!と思うが、本当に知らない、わからない、ということがよくあるらしい。オーストリア語の場合、辞書に載っていないことすらある。Schlagobers
もSackerlもちょっとした辞書だと出てこない単語である。さらに、発音の違いもある。20を意味するzwanzig。オーストリアではツヴァンチックと発音していたが、標準ドイツ語ではツヴァンチッヒだ。こうして挙げていたらきりがないのでこの辺にするが、オーストリア贔屓となった今、標準がオーストリア語と呼ばれずドイツ語という名称であることを少々残念に思う。
だが、ひょっとするとオーストリア人はそんなことに拘っていないのではないだろうか。外務省の海外安全ホームページに次のような記載がある:「オーストリア人はゲルマン系の人が主で、使用言語はドイツ語です。そのため、ドイツ人と同じ国民性であると考えられがちですが、両者の気質はかなり異なると言えます。例えば、ドイツ人は一般に物事を生真面目に、時には深刻に受け止める傾向が強いのに対し、オーストリア人は、ドイツ人に比べ楽天的であり、生活を楽しむ面があると言われています。」
http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4_S.asp?id=156
4年間ウィーンに暮らした私も同感である。ラテン系か?と思わせるノリすらある。ウィーンでは、中・東欧15カ国を担当していたため、出張でオーストリア航空を利用することが頻繁にあったが、彼らの辞書に「定時運航」の文字はなかった。自分たちのペースでのんびり楽しく働き、ようやく出発の準備が整ったら飛ぶ、のである。この時間に飛ばすために頑張る、という行動は誰もしていない。修理や配達も時間通りにはまず来ない。ようやく来た修理が一度で終わることもない。何かを忘れて来るか、間違った道具を持って来ているので二度、三度となる。そんな極めて楽天的に適当に働く人々には、企業やお店のルール、スタンダードというものが存在しないようだ。提供されるサービスは、目の前にいる担当者次第なのである。店員Aに断られたら、店員Bに依頼してみるといい。どうってことなくOKになることがある。言ってみなきゃ損!な国なのである。ただし、こんなこともよくあるのでご注意を。「昨日買ったチョコレート、すごくこだわりのある素敵な包装だったの。さすがハプスブルク家御用達だったお店ね」と感心して追加の土産品を買いに行ったわが妹。まるで違う包装で現れた同じ品物に愕然としたが、そこは日本人、何も言えず黙って帰ってきたのは言うまでもない。ウィーンマダムなら「あなた、これはこうしてこうするものよ!」とビシっと店員を指導する。店員は無視するか、ちょっとマシならブスっとした表情でやり直すことだろう。ただし、不器用な人は徹底的に不器用なので、その出来上がりに期待してはいけない。
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| 紅白柄のクロアチア応援団に占拠されたウィーン旧市街 |
このように極めてアバウトで楽天的なハッピーピープルのオーストリア人達だが、2008年にスイスと共同開催されたサッカー欧州選手権(EURO2008)の際、自国の応援に駆けつけウィーンの街を占拠する本物のラテン系であるイタリア人やスペイン人には完全に圧倒されていた。開催国なのにあまりに淑やかなふるまいで、なんともかわいらしく思えた。まぁ、一勝も出来なかったのだから仕方ないが、弱ラテン系というところか。そういえば、この弱ラテン系の国において、病気、通院、煙突掃除、暖房チェック、引越といった理由は、有給休暇扱いにはならない。病気や通院と言われれば、「はい、どうぞ」と会社にいないことを認めてあげる。さすがに長期になると診断書を提出してもらうが、「温泉療養が必要」という診断書でも持ってこられようものなら温泉に何日行っていても、有給休暇の数は減らすことなく休ませてあげる。また、引越休暇なるものが有給休暇とは別枠で認められているし、煙突掃除や暖房チェックは「何日の何時に行く」と通知された時間に不在の場合、二度目からは有料になるので、これまた「はい、どうぞ」とオフィス不在を認めてあげるしかないのである。その結果、大切に貯めた有給休暇はあくまでもヴァケーションのためだけに存在しているわけで、仕事の繁忙期だろうが、仲間に迷惑がかかろうが「私は、この日からこの日まで3週間休みます!」と宣言されてしまう。日本から転勤して、最初に驚いた出来事だった。
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| 駅の検札 |
ところで、これは楽天的発想なのか合理的発想なのかわからないが、ウィーンでは車内で検札がある長距離列車の発着駅のみならず、地下鉄の駅でも改札がない。素通りできるので、荷物の多いときや急いでいるときには便利だ。一応、券売機と乗車時の打刻機も設置されているのだが、だいたいがひっそりとあるし、定期券を持っているウィーン生活者が立ち寄らないでそのままホームに向かうので観光客の中には気づかずに、いつの間にか地下鉄に乗り込んでしまう人もいる。人類すべて性善説か?と当初思ったが、時々は検札があるから注意しなければならない。初めて出くわしたのは、土曜日に買い物客で賑わう商店街の駅。地下鉄を降りてエスカレーターを上ったら、改札があってもよさそうな位置にズラーっと係員が並んでチェックをしていた。これが笑ってしまうほどたくさんの人が捕まっている。無賃乗車常習犯がいるのだろう。気の毒な観光客もいただろう。それにしても、結構離れているところからもその様子がわかるので、このやり方の場合くるっと向きを変えてもう一度地下鉄に乗れないのかな?と思うのだが・・・。それが出来ないのが、時々出くわす地下鉄の中の私服検札官だ。私の目の前で楽しそうにおしゃべりをしているおじさんとおばさん。ある駅でドアが閉まった。と、突然地下鉄マークのジャンパーを羽織り、首からIDカードを提げて検札を始めるのである。そのスピーディーなアクションには、年間定期を持っていてもドキッとさせられるものがある。ウィーンの地下鉄車両は、新型車両でない限り、隣の車両には移れない造りだ。そこで、一駅間で一網打尽というわけだ。こうして捕まると問答無用で70ユーロの罰金(2009年5月現在)である。たった1.7ユーロの切符をケチって70ユーロでは悲しすぎる。確率計算からすると無賃乗車を続けてたまに罰金70ユーロ支払う乗客と、この稀なチェック方式で人件費やシステム投資を抑えている地下鉄、どっちが得をしているのだろうか?オーストリア気質では、誰もそんな計算に時間を費やさないのかもしれない。
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