女性管理職ウィーン駐在記


3.優雅な飲ん兵衛パラダイス


ぶどう畑

 首都にワイン産地があるのは、世界でもウィーンだけらしい。街の中心からでもウィーンの森の方向を眺めるとブドウ畑がよく見える。ワインは非常に身近な飲み物なのである。オーストリアワインは実に美味しい!と私は思っている。オーストリア大使館商務部の「オーストリアのワイン」 によると、ぶどうの栽培面積が約48,000ヘクタールという小さなワインの生産国ではあるが、このところ日本のワイン愛好家の間でジワジワとその人気が高まっているようだ。少ない生産量、かつ国内消費量が約73%ということで、これまで日本であまり知られていなくても不思議ではないオーストリアワインだが、2008年の日本への輸出量が対前年比24%もアップしたということである。「日本に帰任後は、この味が楽しめなくなるのか・・・」と危機感を抱いていた私には朗報だ。


ウィーン市内でも生産される白ワイン

 オーストリアにおけるぶどうの栽培面積の約75%は白ワイン用である。その半分を占める代表的な地場品種であるグリュナー・ヴェルトリーナーは、とてもシャープな辛口で日本料理との相性は抜群である。ハムやチーズの盛り合わせにもピッタリだ。他にもあっさりと夏向きのヴェルシュリースリングやちょっと甘めのゲルバー・ムスカテラーなど、日本ではあまり馴染みのない品種がオーストリアらしくていい。夏でも爽やかなオーストリアでは木陰の席でのんびりワインを飲みながら寛ぐのは、極上の贅沢である。また、友人達とワインバーで楽しんでいて最終コーナーが近づく頃登場するのが、思いのほか存在感のある赤ワイン、ツヴァイゲルトやブラウフレンキッシュといった地場品種だ。これまた日本ではあまり知られていないのではないだろうか。そして時計の針が深夜0時を廻る頃、秀逸の貴腐ワインかシュナップス(蒸留酒、特にオーストリア名物の杏が美味)でノックアウト!状態、千鳥足で世界遺産の街を家路に着くことになるのである。


白ワインにピッタリのおつまみ 木陰でのんびりワイン 大好きなワインバー
赤ワインも美味しい ガンスルあります!という看板 秋の定番ガンスル料理

 ワインといえば、日本ではフランスのボジョレーヌーボーが有名だが、オーストリアにも新酒(ホイリゲ)の解禁日がある。フランスよりも早い11月11日「聖マルティンの日」だ。この日は、ガンスル(ガチョウ)料理とホイリゲを楽しむ。ホイリゲのような若いワインは、炭酸水で水割りにする飲み方ゲシュプリツターが人気だ。ただでさえアルコール耐性が強そうなオーストリア人が水割りにしているのだから、まさに水のようにガブガブと飲む。ワインを出す店にはビールがないこともあり、そんなときはビールのような感覚で飲んでいるのかもしれない。炭酸ですっきりしているせいか、11月第三週くらいまでの期間限定ガンスル料理にもよく合う。ちなみに、ぶどうがホイリゲになるまでのワイン版濁酒ともいえるシュトゥルムは9月頃から楽しめるが、最初はぶどうジュースのようなシュトゥルムが、ホイリゲとなる日が近づくにつれて味わいを変えていくプロセスが楽しめる。


http://www.winesfromaustria.jp/index.php



ぶどう棚の下でワインと音楽を楽しむホイリゲ

 ところで、こういった気軽なワインは、ブドウ畑のそばのワイン居酒屋で楽しむことが多いが、このワイン居酒屋もまたホイリゲと呼ばれている。ホイリゲには2つの意味があるわけだ。元々、こうした居酒屋が新酒のワイン=ホイリゲを飲ませるワイン農家が始まりなので同様に呼ばれ、それが今ではワイン居酒屋全般の呼び方になったということだ。ホイリゲでは、軒下に松の枝で出来た飾りを下げて「新酒あります」の印にしている。日本の造り酒屋の杉玉にそっくりで、日本人にはビックリ仰天!である。


 そういえば、オーストリアでの期間限定の楽しみに5月~6月上旬のシュパーゲル(ホワイトアスパラ)もあるが、この時期には「今年のシュパーゲルに最も合うワイン」なるものが出たりする。また、厳しい寒さの中開催されるクリスマス市や年末の贈り物であるブタ市では、グリュワイン(赤ワインに香辛料を入れて温めたもの)やプンシュ(蒸留酒に果物や砂糖などを入れて温めたもの)の屋台が人気だ。あまりの寒さに、ホットアルコールで体を温めながら楽しむしかないのだ。こうしてなんだ、かんだと理由をつけて飲んでいる。いや、理由がなくても飲んでいる。冬場、グリュワインの屋台なんぞ、豪華な毛皮のコートを身に纏ったウィーンマダムも立ち飲みだ。なんとも優雅な飲ん兵衛パラダイスなのである。


新酒あります 春の楽しみシュパーゲル 寒いほど賑わうグリュワインの屋台

出来立てのビール

 ところで、チェコ1位、オーストリア4位、日本38位・・・何の順位か?-これは、キリン食文化研究所が発表した国別一人当たりビール消費量(2007年)である。飲ん兵衛パラダイス・オーストリアで楽しめるのはワインや蒸留酒だけではないのだ。実はこのビール消費量ランキングにはウィーンから担当していた中・東欧15カ国中ダントツ1位のチェコ、意外にも上位のオーストリアを含め9つもの国が日本より上位に顔を並べている。8位ポーランド、11位ルーマニア、12位スロベニア、19位クロアチア、20位ブルガリア、21位スロバキア、22位ハンガリー。実は、これらのビール上位国は、北に位置するポーランド、チェコを除いてワインも抜群に美味しい。特に、ハンガリーの琥珀色に輝くトカイワイン、ルーマニアやブルガリアの深みのある赤ワインにも魅了された。そして、なんといってもチェコのビール!なにしろ、日本人好みのピルスナーのルーツはチェコである。チェコを営業車で走っていて、針金を伝わりながら成長しているホップの畑を見たことがあるが、なんといっても感動したのは、プルゼニ(ドイツ語名:ピルゼン)というチェコ第4の都市でピルゼンビールの元祖であり、代表格であるピルスナーウルケル社の工場で飲んだ出来立ての「ピルスナーウルケル」である。この工場には見学コースやロゴグッズの土産店もあり、ちょっとした観光地である。もうひとつチェコのビール話で忘れてはならないのは、アメリカのバドワイザーの元祖はチェコである、という話だ。チェコの南部の町チェスケーブデヨヴィッチェ(ドイツ語名:ブドヴァル)で造られているビール「ブドヴァル」がルーツなのである。これをドイツ系アメリカ人が自国で生産し商標登録した名前がバドワイザーなのだ。この名称をめぐって訴訟問題になっているので、ご存知の方も多いのではないだろうか。もちろん、プラハの町にいたるところにピヴニツェ(ビアホール)があり、ピルスナーウルケルやブドヴァルをチェコ料理と共に賑やかに味わうことができる。


ピルスナーウルケルの工場 バドワイザーの元祖ブドヴァル 活気あるピブニツェ

 中・東欧の国々ではワインやビールが飲めないと、人生の楽しみは半減することだろう。



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