<はじめに>

公益財団法人JAL財団(旧:財団法人日航財団)は、地球温暖化をもたらす大気変動のメカニズム解明のため、民間航空機を使用した大気観測研究に参画しています。
ボーイング747在来型機を使用して、1993年から開始されたこの観測は、機材の退役を機に、産学官の連携体制の下で観測装置(測器)を開発・刷新し、新たな航空機に搭載するプロジェクトに受け継がれました。
本項では、プロジェクトの全体像が把握できるよう、航空機による大気観測の目的、新大気観測に至る経緯と意義、開発体制と観測により取得されたデータ利用の概要などについて紹介します。 詳細については、大気観測装置、航空機への詳細などの項目をご覧下さい。

** 財団法人日航財団は、内閣府より公益財団法人への移行認定を受け、2013年4月1日付で 「公益財団法人JAL財団」 に名称を変更しております。

  


 

<航空機による大気観測の目的>

 

地球環境に関しては、温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、森林破壊や砂漠化など、さまざまな問題が取り上げられています。  本プロジェクトで扱う地球大気の観測は、近年社会的な関心が高まりをみせている「地球温暖化問題」をターゲットとするもので、産業革命以降の人類活動が深く関わっていると言われている二酸化炭素 (CO2) 等の温室効果ガスの大気中濃度を広範囲、高頻度で観測し、その変動と循環のメカニズムを解明するための基礎データを取得することを主たる目的としています

   
地上における二酸化炭素濃度の緯度別経年変化 (出典:気象庁)

















 










気候の予測
(出典:国立環境研究所)


<地域排出量の算定>


<地域排出量の算定>
  • 広範囲・高頻度の
    観測 (空白域の解消)

  • 鉛直分布の観測

  • CO2濃度の詳細な
    空間分布の把握
観測 気候モデル 対策
民間航空機による大気観測の目的

地球温暖化に対応する有効な対策を推進するためには、将来の気候を正確に予測する必要がありますが、そのためには地表の気温に大きな影響を及ぼしている温室効果ガスの濃度分布やその変動を正確に把握することによって、地域ごとの放出量や吸収量およびそれらの気候変動に対する応答を理解することが重要といわれています。
温室効果ガスのうち、CO2 は量的に最もその効果が大きいうえ、石炭、石油の消費や森林伐採で近年急速な増加を続けていることから、大気と陸域および大気と海洋間のやり取りの大きさと今後の変動を明らかにすることに大きな関心が寄せられています。 
温室効果ガスのうち、フロン類 (CFCHCFC) や六フッ化硫黄 (SF6) などは人為起源物質であるためにその放出量や放出源分布が統計的に把握しやすいものですが、CO2 の地球規模での循環の過程や自然、人間活動を含めた放出と吸収の収支とその地域性については、大きな不確定性があります。 したがって、将来の温室効果ガスの濃度や分布について予測の信頼性をより高めるためには、現時点での海洋や陸域での CO2 の放出・吸収 (ソース・シンク)量 の変動や空間分布を正確に把握するための観測を、高頻度・広域・高精度でおこなうことが重要です。 
温室効果ガスの地上観測は、1958年にハワイのマウナロア山腹で開始され、今日では世界中の100箇所以上で様々な国、機関により行われています。 近年温室効果ガスの三次元変動を把握するため、船舶や航空機などの移動体、および大気球が用いられてきていますが、航空機を利用した観測は例が少なかったうえ、そのほとんどはチャーター機によるもので、定期的・長期的かつ広範囲・高頻度にわたって実施するには、コストも含め様々な制約がありました。 したがって、それらの観測プラットフォームと比較して、国際路線を定期的に運航する民間航空機は、観測用測器を搭載する、極めて魅力のある対象とされていました。
(温室効果ガス、観測網などについては、参考資料(大気関連)を参照して下さい)

 


 

<新大気観測に至る経緯>

 

JAL財団と日本航空は、1993年4月から2005年12月まで、日本―オーストラリア間で、上空大気に含まれている温室効果ガスの濃度を観測してきました。 上空大気の採取は、月約 2 回の頻度で続けられ、採取された大気は、気象庁気象研究所にて分析され、南北半球にまたがる上層大気 (高度約1万メートル) の CO2 、メタン(CH4)、および一酸化炭素(CO) の濃度変化と、大気循環などに関する多くの知見が得られています。 
この観測は、民間の定期航空便を利用し広範囲かつ長期的に実施するものとしては世界初のものであり、その後、フランスやドイツを中心とする欧州グループも旅客機 (エアバス機材) を用いた同様の観測を開始しました。 (詳細については、旧大気観測を参照して下さい)
そのような状況の中で、観測に使用されていたボーイング747在来型機 2 機の退役が近づいた 2003年9月に、それまでの観測を継続し、より発展させるための、新大気観測プロジェクトが発足しました。 折りしも、近年の地球温暖化問題に対する社会的関心が高まる中で、地球観測サミットが開催され、国際的な地球観測 (GEOSS) の更なる重要性が認識され始めた時期でもあります。
このプロジェクトでは、文部科学省からの資金援助を受け、産学官の連携体制の下で、2006年3月までの約 2年半の間に、2種類の新たな大気観測装置の開発を行い、新たな機材 (ボーイング747-400型機、ボーイング777型機および宇宙航空研究開発機構が所有する試験飛行機) に搭載し、試験観測を開始する計画目標が立てられました。






<新大気観測の意義> 

新大気観測で新たに開発される、CO2濃度連続測定装置 (CME) は、CO2をその場で連続的に測定するもので、従来の大気観測では得られなかった、以下のような優れた特徴を有しています。
@.水平飛行時だけでなく、上昇・降下時にもデータが取得できるため、CO2 濃度の鉛直分布が観測できる。
A.連続した測定ができるため、細かな空間分布まで観測が可能となる。
B.日々運航する民間航空機の飛行頻度から、従来に比較し、観測頻度が飛躍的に向上する。
C.オーストラリア線だけでなく、日本航空が運航する他の路線(アジア、北米、太平洋、ヨーロッパなど)上での観測が可能となる。
CME

これらの特徴を持つ CME による観測には、以下のようなメリットがあり、炭素循環の解明を通じた3次元輸送モデルの精度向上や、2008年に日米で打ち上げが予定されている温室効果ガス観測技術衛星 (GOSAT, OCO) から得られるデータの検証、京都議定書の各種対策の検証などに期待がもたれています。

@.CO2 観測の空白域の一つである東アジア・東南アジアでのデータが定常的に得られる。
A.特に熱帯域での鉛直分布を通年観測した例は皆無であるため、貴重なデータとなる。
B.大陸別の CO2 吸収・放出量の推定精度の向上に役立つ。
C.日本が温室効果ガスの航空機観測分野で世界のリーダーシップを取ることが期待できる。
D.大気の輸送(南北半球交換、鉛直方向の輸送など)を理解するうえで有用な情報が得られる。

また、改良型自動大気サンプリング装置(ASE)では、任意の地点での大気サンプリングが可能となったほか、採取された大気に対し、従来のCO2、CH4、CO に加え、一酸化二窒素 (N2O)、水素 (H2)、六フッ化硫黄 (SF6)、の各濃度、および炭素安定同位体比 (13C/12C) と酸素安定同位体比 (18O/16O) の測定が新たに行われます。
注 : 
H2 は将来濃度が増加した場合に、間接的に温室効果を助長したり、成層圏では、オゾンを破壊する原因となるため、その濃度の空間分布や時間変動を知ることは重要です。
炭素・酸素安定同位体比は、大気と海洋間、大気と陸上生物間で CO2 が交換された場合、これらに影響が現れるので、CO2 がどこに吸収されたかの指標になります。
SF6 は、純然たる人工物質であるため、植生などの影響を受ける CO2 の観測データと併用すれば、南北両半球をまたぐ大気の動きをより明瞭に把握できるものと期待されています。
ASE







<開発体制と開発経緯>


新大気観測プロジェクトでは、新たな大気観測装置 (CME, ASE) を開発し、日米航空当局からの承認を得たうえで、これらを 2 機種の新型航空機に搭載する計画が立てられ、
民間航空機による温室効果ガスのモニタリング手法に関する新たな提案と世界標準を確立することを目指しました。 この観測計画は、従来の枠組みをはるかに超えた大きなものであり、私企業のみで実施できる範囲を超えるため、各関係省庁の理解を得て産学官のプロジェクトとして立ち上げることになりました。
測器の開発および機体の改造は、文部科学省からの委託研究資金の援助 (科学技術振興調整費:プログラム名「産学官共同研究の効果的な促進」) を得て、関連機関の共同研究・開発体制のもとに行われ、2005年11月、新たな測器の設計と、日本航空が保有する ボーイング747-400型機に対する測器搭載の承認を得ることができました。(下図および新大気観測プロジェクトの歩みを参照)
2006年2月には2機目の747-400型機への測器搭載が完了。 2006年3月末には、ボーイング777型機初号機への測器搭載承認も得て、その後更に同型機 2 機への搭載も完了し、現在当初の計画通り、 5 機体制で観測が行われています。
なお、新大気観測では、日本航空が運航する国際線機材 5機に加え、宇宙航空研究開発機構所有の飛行試験機 1機にも測器が搭載され、相模湾上空などでの集中的な観測も行われます。
この間、従来からの航空機大気観測結果の評価に加え、このような新大気観測計画における測器開発と新たな航空機観測プラットフォーム構築の成果実現のため、外部有識者と共同研究機関からの参加のもと、2003年11月に「航空機による大気組成観測推進委員会」を発足しました。 この委員会は、2006年9月までの間、計 7 回開催され、ボーイング777型機の承認取得と観測データの無事取得を持ってその主たる目的を達成し、解散しました。
今後は、観測プラットフォームの維持と観測データの有効利用を目的とした、新たな委員会にその役割が引き継がれる予定です。

           

機関名 各機関の役割
JAL財団 測器および機体改造に関する要件の調査・検討を担当するとともに、日本航空保有機の機体改造および計画全体の総括を行います。
東北大学 CME によって取得される膨大な量のデータを処理するための解析プログラムを開発するとともに、学術的な観点からの助言・指導を行います。
国立環境研究所 測器の開発と航空機への搭載、それらに関わる諸手続きを総括するとともに、ASE によって採取されたサンプル大気の分析とその分析結果、およびCMEによって測定された観測結果を用いた総合的な解析を行います。
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 所有する機体を改造して CME の先行機能評価および運用方式の検討等を担当するとともに、その後も継続的な観測を実施します。
気象研究所 ASE開発の一部を担当するとともに、ASE によって取得された観測結果の解析を行います。
日本航空 国立環境研究所で開発される測器を日本航空保有機に搭載するにあたって、@ その搭載方法、A 機体からの情報取得方法に関する研究開発、B 観測を実施するための機体改造、および、C 継続的な観測の実施を担当します。
ジャムコ JAL財団と国立環境研究所が行う諸作業に関する以下の業務を支援します。@ 開発される測器に対して航空機搭載用の機器としての耐空性を付加するための研究開発、A 承認取得のための試験方法の調査と試験の実施、B 航空機改造に関する設計や承認取得、C 観測が開始後の測器のメンテナンス。






<測器の開発>

 

ボーイング747在来型機で行われていた大気観測では、下の写真に示す自動大気サンプリング装置 (ASE) が使用されていました。
ボーイング747在来型機による大気観測 (左:機体への測器搭載、右:旧ASE)

       

新大気観測プロジェクトでは、既存の大気観測装置の設計・製造や航空機観測で培われた技術と観測手法・運用経験などを基に、改良型の ASE と、新たな CO2濃度連続測定装置 (CME) が開発されることになりました。 開発、製造に関しては、国立環境研究所や気象研究所などの既存の測器と大気組成観測に熟知した機関の研究者の指導の下、潟Wャムコが担当しました。 
改良型の ASE は、従来の ASE に軽微な改善を加え、且つ航空機に搭載された他のシステム機器から取得した位置情報 (緯度、経度、高度など) を使用し、任意の地点で作動を開始させるなどの自動化を図る等の機能を付加するとともに、航空機搭載部品として要求される機械的強度や、電磁干渉など航空機の安全運航に悪影響を及ぼさないよう、厳しい設計要件が求められました。
 また、新たに開発された CME は、基本的な CO2 濃度の測定原理と、標準ガスを使用した精度維持などの手法においては従来から行われているものと同様ですが、過去に類似する航空機用製品は全く無く、基本設計からのスタートとなりました。 また ASE と同様の厳しい試験に合格することも求められました。

環境試験の実施状況 (左: 電磁干渉試験、右: 低圧試験)

測器の開発は、これらの厳しい要件を着実に満足させながら行われ、2005年春、FAA 検査官立会いの下、航空機搭載機器に要求される環境試験 (耐振動・衝撃、耐熱、耐圧、耐水、耐電磁干渉など) が実施され、無事合格することができました。
この時点で、後に実施される航空機改造後の測器を含めた総合試験への、大きなハードルを乗り越えたことになります。

 


 

<機体改修と承認取得>

 

新大気観測プロジェクトでは、日本航空が保有するボーイング747-400型機とボーイング777型機を改造し、新しく開発した大気観測装置を搭載します。 また、同型式の航空機に、毎回同様の手続きを繰り返すことなく測器を搭載できるよう、航空機搭載用機器としての設計承認、および測器搭載のための機体改造設計の基本承認を得ることとし、米国にある潟Wャムコ関連会社 Jamco America, Inc. が日米両国の航空当局に対し、追加型式設計承認 (STC) の申請を行いました。 

   

新大気観測装置の取り付け状況 (左: CME、右: ASE)

ボーイング747-400型機初号機 (登録番号JA8917) の改造は、2005年10月に行われ、機体改造と、測器搭載による安全性を確認するための試験飛行を実施後、2005年10月26日FAA の STC を取得し、2005年11月7日国土交通省航空局の追加型式設計承認を取得しました。 ボーイング777型機についても、2006年3月に改造が行われ、試験飛行実施後、3月末に日米当局からの承認を取得しました。
また、宇宙航空研究開発機構のビーチクラフト65型機 (JA5111) に CME を搭載する改修は、2005年2月に行われ、同年2月21日に国土交通省航空局の修理改造検査に合格しました。

      

追加型式設計承認書 (STC)



<観測データとその利用>


2005年11月から開始された新たな測器による観測からは、本格運用の開始に向けて、次々と有意義なデータが得られています。 具体的なデータ利用や試験観測時に得られたデータの一例については、こちらをご覧下さい。
新大気観測では、測器が搭載される機材が増え、観測路線も拡大したため、今後膨大な量の観測データが得られることとなります。
新大気観測プロジェクトにおいて構築された民間航空機観測プラットフォームの維持管理(整備費を含む)と、これらの膨大な観測データの解析・管理および情報発信については、環境省地球環境保全等試験研究費の支援を受け、国立環境研究所が中心となり、開発に携わった関連機関の連携・協力体制のもとに行われます。

開発された測器が、日本航空保有の機材5機に搭載されていくまでの間は、主に測器から得られるデータの精度の検証、測器の搭載/取り外しの間隔などの運用方式の検証と、測器そのものの品質モニターならびに改善に重点が置かれました。
これらの試験観測と平行して、データの利用体制を構築するための諸準備が進められており、測器の精度確認や、品質管理体制を確立の後、本格的な運用が開始されます。 本格運用で得られた観測データとそれから得られた知見については、学識経験者を含む新たな専門委員会「航空機による地球環境観測推進委員会」の助言を踏まえ、逐次公表されていく予定です。

本ホームページでは、それらの一部を分かりやすくタイムリーに紹介していきますが、詳細なデータの公開方法と時期についても、今後上記委員会にて検討が行われます。


<観測データとその利用>

以上のように、JAL財団では、今後、産学官の連携プロジェクトで構築された航空機観測プラットフォームが円滑に維持・運営されるよう、関連機関と協力していくとともに、観測データから得られる情報・成果を幅広く紹介していく予定ですので、皆様方のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。 

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