<新大気観測プロジェクトの歩み>

旧大気観測は、2005年12月をもって終了しました。 最終報告書については、こちらをご覧下さい。


1-1. はじめに

世界初の長期継続観測


日航財団と日本航空は、国土交通省の支援の下に気象庁気象研究所と共同して、上空大気に含まれている温室効果ガスの濃度を観測しています。
1993年4月から開始されたこの観測は、月に2回のペースで続けられ、2005年12月末には278回目の観測を記録しました。これは、民間の定期便を利用し広域を継続的に観測するものとしては世界初のものであり、その後、フランスやドイツを中心とするグループも旅客機を用いた継続観測 (MOZAIC および CARIBIC) を開始しました。

 

観測が気候変動予測の基本


地球温暖化に対処するための有効な施策を確立するためには、将来の気候の変化を十分な精度で予測できる仕組みが必要です。そのためには、温暖化のプロセスを把握し、それを数式化した気候モデルを作成し、コンピュータに計算させるといった手順が必要です。

この手順の中で、プロセスの解明には、定期的・長期的かつ広範囲にわたって正確に測定された観測結果が必要です。また、気候モデルの計算結果を検証するためにも、そのような観測結果が不可欠です。

従来から各国が、大気のデータを収集するための観測網を張りめぐらせてきましたが、これらの観測基地は、基本的には地上あるいは観測船上に設置されてきたため、高空を含めた立体的な観測網を構築することは不可能でした。

そこで、日航財団と日本航空は気象研究所と共同して、1991年9月に「旅客機を用いた観測計画」を立案し、1993年4月から実際の観測を開始いたしました。
(その後、観測衛星による観測も加わり、現在では、陸海空および宇宙からの観測を一体化する動きが盛んになりつつあります)

捉えられた大気の動き


この観測は、オーストラリアと日本を結ぶ日本航空の定期便に大気を採取するための特殊な装置を取り付け、着陸後、その装置を気象研究所に運び込んで、高度 10 km 付近の大気に含まれている温室効果ガスの濃度を分析するものです。観測対象は、CO2 (二酸化炭素)、CO (一酸化炭素) および CH4 (メタン) となっています。

この観測装置には、採取した大気を保存するための12本のフラスコ (チタン製のサンプル容器) が取り付けられています。たとえばシドニーは南緯34度付近、成田は北緯36度付近に位置していますが、大気-は巡航時にだけ採取されるため、南緯30度付近から北緯30度付近の約60度の幅の中で約5度ごとに大気が採取されます。

 

    

ASEの取り付け場所                      ASE         

観測ルート

この観測の結果、


@ 植物の光合成と呼吸の影響による CO2 濃度の季節変動が上空にも及んでおり、また、上空の CO2 の増加率は地上でのそれとよく一致している。これら二つから、地上で発生した CO2 が対流に乗って上空まで到達している。
A 主に北半球の中緯度帯で発生する CO2 が、高層の大気の流れに乗って南半球に向けて運ばれており、同時に、さらに上空まで達した CO2 は、超高層の大気の流れに乗って、いったん、南半球の中高緯度帯まで運ばれている。
B 1997年の強いエルニーニョの結果生じたアジア・オセアニア地域での森林火災に伴って発生した CO が上空に達して、高層の大気組成に影響を及ぼしている。

など、多くの有益な情報を得ることができました。
これらの観測結果は、温暖化を始めとする気候変動の予測のために大きく貢献できるものとして内外から高く評価されています。




1-2. 得られた結果とデータの提供

CO2 、CH4 および CO の観測結果

図は、CO2 (二酸化炭素)、CH4 (メタン) および CO (一酸化炭素) の観測結果を示したものです。(詳細は1-3で説明します)

Observation Result of
CO2               CH4             CO

    
     

観測結果の提供

この観測結果は、日航財団内に設置された委員会による評価を受けたのち、気象庁が運用する「WMO 温室効果ガス世界資料センター (WDCGG)」および日航財団を通じて、国内外の関連機関や研究者に提供されています。

このための委員会として従来から、「地球環境観測検討委員会」が運営されてきましたが、2003年末からは、新大気観測計画の発足に伴って設立された委員会である「航空機による大気組成観測推進委員会」にその役割が引き継がれました。

なお、「航空機による大気組成観測推進委員会」は、2003年11月4日から約3年間に渡る開発期間中精力的に運営され、2006年9月4日に開催された第7回委員会をもって解散しました。
これら、「地球環境観測検討委員会」および「航空機による大気組成観測推進委員会」の委員は、それぞれ下記のとおりです。


航空機による大気組成観測推進員会 委員名簿 (2006年9月6日解散時)
小川 利紘 (財)日航財団 顧問研究員、東京大学名誉教授(委員長)
久保田 弘敏 東京都立科学技術大学客員教授、東海大学教授、東京大学名誉教授
中澤 高清 東北大学大学院 理学研究科 教授
今須 良一 東京大学 気候システム研究センター 助教授
千葉 長 気象庁気象研究所 環境/応用気象研究部 第2研究室長
田口 彰一 (独)産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 地球環境評価研究グループ
主任研究員
Shamil Maksyutov (独)国立環境研究所 地球環境研究センター 主席研究員
五十嵐 保 (財)リモートセンシング技術センター 研究部長
松枝 秀和 気象庁気象研究所 地球化学研究部 第1研究室長
井上 元 名古屋大学大学院 環境学研究科 教授
町田 敏暢 (独)国立環境研究所 地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室長
石川 和敏 (独)宇宙航空研究開発機構 飛行システム技術開発センター 先進無人機・観測セクションリーダー
  国土交通省 総合政策局 環境・海洋課 都市交通環境・エネルギー対策企画官
  国土交通省 航空局技術部 運航課長
  国土交通省 航空局技術部 航空機安全課長
  環境省 地球環境局 総務課 研究調査室長
  気象庁 地球環境・海洋部 環境気象管理官
  (株)日本航空インターナショナル 常務取締役 地球環境部等担当
  (株)日本航空インターナショナル 取締役 整備本部長
  (株)日本航空インターナショナル 運航部長
  (株)日本航空インターナショナル 技術部長
  (株)ジャムコ 副社長 航空機整備カンパニー カンパニープレジデント
  (株)ジャムコ 航空機整備カンパニー 東京整備工場 工場長
  (財)日航財団 専務理事
 




1-3. 観測データから判明したことがら

1-3-1. CO2(二酸化炭素)の長期的変動

図は、CO2 濃度の観測結果を示したものです。ここには、上から、北緯25〜30度、北緯20〜25度といった具合に、緯度帯ごとのデータが示してあります。また、実線は観測データそのものを、破線は観測データから得られた長期トレンドをそれぞれ示しています。

図からも分かりますように、長期的な傾向としては、CO2 濃度は、どの緯度帯においても同じ増加率で増え続けています。この増加の原因は、言うまでもなく、石炭・石油・天然ガスなどの、いわゆる化石燃料の消費によって放出された CO2 にあります。

なお、この観測から得られた CO2 の1年あたりの増加率は、世界各地の地表または海上で観測された観測結果とも良く一致しています。このことは、地上での CO2 濃度の変動が、少なくとも高度 10 km までは伝播していくことを示しています。




1-3-2. 北半球での CO2 濃度の短期的変動(季節変動)

北半球では1年に1回づつ、CO2 濃度が増減を繰り返しています。これは、主に植物の影響によるものです。春季〜秋季には、大気中の CO2 が、光合成によって植物に取り込まれ CO2 濃度は減少します。冬季〜春季にかけては、落ち葉の発酵などによって生じる CO2 と、植物の呼吸作用が光合成作用を上回ることによって生じる CO2 によって、大気中の CO2 濃度が増加します。

このような季節変動が上空で観測されるという事実も、少なくとも高度10kmまでは、地上での CO2 濃度の変動が伝播していることを示しています。

図からは、四季が明瞭で陸地の多い北半球中緯度帯では、この季節変動による CO2 濃度の季節変動が顕著であることが分かります。そうすると、明瞭な四季を持たない低緯度地方では、季節変動が非常に小さくなるはずですが、観測結果は、そのようにはなっていません。このことは、上層の大気の流れによって、北半球中緯度帯の季節変動が、低緯度地方まで伝わっていることを示唆しています。

このように、北半球の中緯度地域で発生した「植物による季節変動」が赤道付近にまでも影響を及ぼすのは、CO2 は寿命が長いために、地球規模で移動している間に、ほかの化合物に変化してしまう、といったことがないからです。

つまり、主に北半球の中・高緯度地域で発生する「化石燃料の消費による二酸化炭素の増加」は、地球全域に、一様にその影響を及ぼすはずです。事実、図の点線で示された長期トレンドに注目してみますと、どの緯度帯においても、ほぼ同様の増加傾向を示しています。



1-3-3. 南半球での CO2 濃度の変動

南半球の季節変動に注目してみますと、北半球とは違って、CO2 濃度はかなり複雑に変化しています。図は、この理由を探るために、10年以上に及ぶこれまでの観測データから、緯度ごとの平均的な季節変動を抽出したものです。

この図から、次のことがらを読み取ることができます。

@ 南半球の3月付近に存在する CO2 濃度の極小域は、南半球の植物の光合成による CO2 吸収が原因であるらしい。また、11月付近に存在する CO2 濃度の極大域は、南半球の、植物の呼吸および落ち葉の腐敗に伴うCO2 放出が原因であるらしい。ただし、南半球では陸地の占める面積が非常に小さいため、南半球の植物が上層大気の CO2 濃度に及ぼす影響は著しく小さく、これらによる変動はごくわずかである。

A それに対して、南半球の6〜7月付近に存在する CO2 濃度の極大域は、北半球の5月付近の極大域の延長線上にあるように見える。同様に、南半球の9〜10月付近に存在する CO2 濃度の極小域は、北半球の9〜10月付近の極小域の延長線上にあるように見える。

B つまり、南半球上空の CO2 濃度の季節変動は、北半球の季節変動の影響を大きく受けたものであるらしい。ただし、その季節変動の伝わり方は、南半球の6〜7月付近の CO2 濃度の極大域では、北→南の方向であるように見え、一方の、南半球の9〜10月付近の CO2 濃度の極小域では、南→北の方向であるように見える。

C この「季節変動の伝わる方向」が正しいとすれば、北半球中緯度帯の季節変動が、「上空を通して南半球に向って伝わっていく経路」と、「さらに上空を通して、いったん南半球の高緯度地方まで伝わり、その後、赤道に向って北上する経路」があることになる。

大気の動き

ここでは、南半球の植物による影響と北半球からの影響という2点だけを考慮しましたが、実際の上空の CO2 濃度は、東南アジア〜オーストラリア、南アメリカおよびアフリカなどで発生する森林大火災の影響も受けますので、その変動の様子はさらに複雑になります。

気候変動予測の精度を改善するためには、南北両半球をまたがる大気の動きを完全に把握する必要がありますが、そのためには、この種の観測をさらに続けることが重要です。

なお、2006年からは、新大気観測計画による観測が開始されますが、ここでは、SF6(六フッ化硫黄)の濃度も測定されることになっています。このSF6 は、純然たる人工物質であるため、CO2 の場合のような「植物の影響」は受けません。したがって、SF6 の観測データと CO2 の観測データを併用すれば、南北両半球をまたがる大気の動きを、より明瞭に把握できるのではないかと期待されています。

上記のような南北両半球をまたがる気体成分の移動(これを輸送と呼びます)は、図に示された「大気の動き」によるものです。北半球中緯度帯の季節変動が全球に伝わっていくということは、主に北半球中緯度帯で消費される化石燃料から排出されたCO2 も全球に輸送されることを意味しています。




1-3-4. 地表の CO2 濃度と上空の CO2 濃度

図は、地表からの影響が、どのようにして上空に及んでいるのか、ということを評価するために、我々の観測結果である「上空大気中の CO2 の濃度変化」を、それとほぼ同じ緯度帯で観測された「地上の二酸化炭素の濃度変化」と比較したものです。

地表のCO2濃度と上空のCO2濃度

図の実線は、我々の観測データから、季節変動分だけを抽出したものです。また、破線は、各緯度帯に該当する地域の、地上(海上)で観測されたデータから、同様にして、季節変動分だけを抽出したものです。ちなみに、破線のベースになったデータは、米国海洋大気庁(NOAA : National Oceanic and Atmospheric Administration)によって観測されたものです。

まず、北半球で、CO2 の濃度がピークを示す季節に注目してみますと、上空での季節変動には、地表で観測された「光合成による季節変動」に比べて、1〜2ヶ月程度の時間遅れがあります。また、CO2 濃度の変動の振幅に注目してみますと、上空に向かって、振幅が徐々に小さくなっています。

これらから、地表で発生した「光合成による季節変動」の影響が、大気の流れ(対流)によって、上空の変動に影響を与えていることが分かります。

一方、南半球での CO2 濃度の変動の振幅は、地上よりも、むしろ上空の方が大きくなっています。これは、北半球で生じた「光合成による季節変動」が、南半球にも影響を及ぼしている結果であると考えられています。この事実は、1-3-3項(南半球での CO2 濃度の変動)のところで出てきた「さらに上空を通して、いったん南半球の高緯度地方まで伝わり、その後、赤道に向って北上する経路があることになる」という考え方を支持するものです。




1-3-5. CH4 (メタン) の濃度の変動

図は、CH4 濃度の観測結果を示したものです。
図に示されているように、CH4 の場合、CO2 に比べて、短期的変動が大きくなっています。これは、CH4 の場合には、CO2 に比べて寿命が短いため、大気中を輸送されている間に酸化されて、ほかの化合物に変化してしまうことを反映した結果であると考えられています。







1-3-6. CO(一酸化炭素)の濃度の変動

図は、CO 濃度の観測結果を示したものです。
図に示されているように、CO の場合も、短期的変動が大きくなっています。これは、CO の場合にも、CO2 に比べて寿命が短く、大気中を輸送されている間に酸化されて、ほかの化合物に変化してしまうことを反映した結果であると考えられています。

CO の寿命が短いということは、その観測結果は、局地的な変動による影響を受けやすいということを意味しています。

図には、1997年10月ごろに、一酸化炭素の濃度が急激に増加していることが示されていますが、これは、この時期に発生した強いエルニーニョ現象によってインドネシア付近が異常に乾燥し、森林火災が燃え広がったことの影響を受けたものであると考えられています。また、1994年10月ごろにも、南半球での一酸化炭素の濃度がかなり増加していますが、この時期にも、比較的強いエルニーニョ現象が発生したことが確認されています。

エルニーニョ現象のように、数年に一回しか起こらないような現象による影響を検出するためには、この大気観測プロジェクトのような、定期的かつ継続的な観測計画が必要です。

それでは、1997年10月ごろに観測された 「一酸化炭素の濃度増加」 が、強いエルニーニョ現象に伴う森林火災の影響を受けたものであるということが、なぜ分かるのでしょうか? 森林火災のように、植物が燃焼することをバイオマス・バーニングと呼んでいますが、実は、このバイオマス・バーニングが一酸化炭素の放出源となる場合と、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料が一酸化炭素の放出源となる場合とで、生じたガスの成分中の「CO と CH4 の濃度比」は顕著に異なることが分かっています。

幸いなことに、この観測では、CH4 の濃度も分析していますので、CO の濃度と CH4 の濃度の比を求めることによって、何が燃焼して CO や CH4 が生じたのかを解明することができました。




1-3-7. CO の上空への広がりの様子

1997年に生じた強いエルニーニョ現象に伴って発生した東南アジアでの大規模森林火災によって、大量の CO が放出されました。この CO の挙動を捉えた業績によって、この観測計画の解析を担当されている気象研究所の松枝秀和室長が、1999年度の「堀内賞」を、日本気象学会から受賞されました。

CO は、大気中に存在する他の物質と反応して、非常に複雑なプロセスを経て、対流圏の O3(オゾン)の濃度を増加させる働きを持っています。このように、大気中のオゾンの生成に一役買う物質をオゾン前駆物質と呼んでいますが、このオゾン前駆物質としての CO の、大気中における分布の解明に役立ったということが、受賞の理由になっています。

このようなオゾン前駆物質の濃度とオゾン濃度との関係は、実験室などで以前から明らかになっていますが、現実の大気の中で、オゾン前駆物質としての CO が、どこから放出されて、それが風によってどのように輸送されて、その結果として、観測結果のような CO 濃度の変動が現われた、といったところまで追跡することは、それほど簡単ではありません。

そのような研究を行うための一つの方法として、大気大循環モデルを利用したシミュレーションを行う方法があります。つまり、飛行機での観測によって得られた CO の濃度が、どこで放出された CO に起因するものなのかを知るために、モデルの中で、適当な場所から CO を放出させて、その行方を再現させて検証するわけです。今回のシミュレーションは、(独)産業技術総合研究所の田口彰一先生の協力を得て実施されました。

このシミュレーションの結果、および、上空で採取された大気中の CO と CH4 との構成比から、飛行機で観測された高濃度の一酸化炭素は、東南アジアでの森林火災に起因することが分かりました。

COの広がりの様子に関するモデル計算の結果

観測されたCO濃度と南方振動指数との関係

この森林火災は、エルニーニョ現象によって、東南アジア、特にインドネシアやオーストラリア北部が異常に乾燥するために生じるもので、その火災で大量の CO が放出され、それが上空に舞い上がったところを、この大気観測が捉えたわけです。エルニーニョ現象は数年ごとにしか発生しませんので、その影響を捉えることはなかなか困難です。そのため、非常に強いエルニーニョ現象が起こった1997年になって、ようやく、その影響が捉えられたということになります。




1-4. 大気採取の仕組み

大気を採取するための装置 ASE(Automatic Air Sampling Equipment)は、オーストラリアから日本に向かう日本航空のボーイング747型機(ジャンボ)に搭載されています。

 

  ASEの搭載場所

ASEの外観 

ASE は、二つのボックスから構成されており、それぞれに、6個のサンプル容器(容積約1.9リットル)が組み込まれています。ASE の作動は、内蔵された圧力センサーとコンピュータによって制御されています。機内の圧力をモニタしている圧力センサーが、機体が巡航に入ったことを検知すると、ASE が作動を開始し、その後は、あらかじめ設定された時間間隔(約40分)で、12回の大気の採取を行います。

大気を採取したときの時刻は、ASE に内蔵されたコンピュータに記録されます。この時刻と、機体に搭載されている別の記録装置のデータを突き合わせて、それぞれのサンプル容器に大気が採取された場所の、緯度・経度・高度が特定されます。

ASE の設計製作にあたっては、旅客機に搭載される機器であるということから、安全性の確保については格段の注意が払われました。たとえば、緊急時には二重の安全装置が働き、お客さま、および機体に危害を与えない仕組みにしてあります。そのほかにも、長期間の使用に耐えられるように、温度・湿度等に対する環境試験を行い、強度の検証のための遠心加速試験なども行って、定められた基準を満足していることを確認しています。

1993年4月には、実際の運航条件下で、大気採取システム全体が正常に作動することを確認するための試験飛行が行われ、航空局から、定期旅客便で運用することについての承認を取得することができました。




1-5. 採取される大気について

日航財団、日本航空および気象庁気象研究所およびによる大気観測計画は、1991年9月に発足しました。それ以来、上空の大気をどのようにして採取するかなど、多くの課題に挑戦することになりました。定期航空便に観測装置を載せて大気を採取するという試みは、世界でも初めてのことであったため、さまざまな問題を解決する必要がありました。

まず、上空の大気を採取するための ASE の開発が必要です。このシステムは主として、当時の日本航空技術研究所と気象庁気象研究所によって開発が進められました。まず、9〜13 km という高度で、どのようにして大気を採取するかという課題に直面しました。

観測対象となる成分を変質させないという観点からは、機外の空気を直接採取する方法が望ましいのですが、これには、コスト上の問題や安全上の課題があるために、空調システム用に使用される空気が使えないかという方向で検討が行われました。しかし、ジェット旅客機の空調システムには、エンジンから取り入れた空気が使用されますので、その空気は、ジェットエンジンの中でいったん、最高で170℃ 程度まで上昇します。そのため、せっかく採取した大気の中の二酸化炭素やメタンが変化を受けるのではないかという懸念がありました。

そこで、機体の外部から直接採取した大気と、空調システムから採取した空気の成分を比較するための試験飛行が1992年1月に実施されました。この試験飛行では、機外の大気を直接採れるようにするために、客室の窓の一枚が、特殊なアルミ製の窓に取り換えられました。

この試験の結果、両者のサンプルの中の二酸化炭素やメタンなどの濃度に差異が無いことが確認され、採取された空気を、専用のポンプで加圧した上で ASE に貯め込むという大気採取システムの考え方が決定されました。

試験飛行時、外気を取込むために特別に取付けられたピトー管

エアコン用空気と外気の成分比較




1-6. 観測路線の変遷

1993年4月から、ケアンズから成田に向かう定期便で月1回のペースでの観測が開始されました。

1994年7月には、路線計画の変更により、大気採取システムを搭載する機体が変更されたため(機番 JA8127 → 機番 JA8131)、JA8131 の機体改造が実施されました。この改造に伴って、自動大気採取装置の取り付け位置が、それまでの客室の天井部から、前方貨物室の後方壁に変更されました。

ASEの取付け状態

このとき同時に、観測路線もシドニー=成田に延長され、1994年9月からは、観測回数も月2回に増強されました。さらに、1999年2月からは JA8130機にも観測システムを新設して、2機体制(機番 JA8130 と JA8131)で観測を継続しました。

その後、2002年4月からは、JA8131機とJA8130機の路線計画の変更によって、観測路線がブリスベン=成田に変更されました。


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