日本政府はビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)の下、”外国人旅行者訪日促進運動”を行っています。数値目標として2010年までに1,000万人の訪日外国人を得ることです。因みに2006年では733万人の実績を数えています。日航財団は日本政府が重点市場として指定した地域12カ国の内、7カ国から毎年夏に大学生をJALスカラシップとしてを受け入れる一方、3カ国から大学生の財団での企業研修を1年単位で受け入れております。又 政府の観光促進運動に呼応しつつ、ツーリズム研究の一環として、これら研修生の目を通して「日本の観光資源」を調査、紹介しています。

第六回は、昨年に引き続き、「桜」。都内の名所を訪問しました。
日本を語る上で、かかせない桜は、外国人にとっても大きな魅力です。
「桜と桜をみる日本人をみるのがおもしろい」との声。
「桜の旅」が日本の人気ツアーとなる時代が、やってくるかもしれません。
さて、中国の研修生ガオさん、韓国の研修生キムさんは、桜から、何を感じたのでしょうか。


■ 実施日 2008年4月3日
■ 天候 はれ
■ ルート 新宿御苑→上野公園→アメ横→皇居北の丸公園


春の旅~桜の花見

ガオ・ティン・ティン

 日本について日の丸の国旗以外何も知らなかった私の桜についての第一印象はピンク色の花びらではなく、小学校の音楽の授業で習った「桜」という歌だった。緩やかなリズム、どこが日本風かよく言えないが、なんとなく聞くたびにこれは日本のものだと思ってしまう。桜=japanというイメージはそのときできたのだろう。

 中学校に入って、日本語の授業で桜は天皇の象徴となる菊とともに日本の国の花だと知った。一体桜ってどんな花でしょうと思ったとき、ちょうど当時大ヒットした香港の郭富城と张柏芝が主演した映画「Para Para Sakurasss」を見た。生き生きとした20人の若者が真の愛を求めて、やっとハッピーエンドを迎えた二人の主人公といっしょに桜の雨の中で軽やかに舞うシーンは、桜ってなんて美しいのだろうと感動させてくれた。

 大学に入って、学校のすぐ近くに日本政府からいただいた桜がいっぱい植えてある「玉淵壇公園」があると聞いて、桜が咲く最初の春、さっそく友達と見に行った。これで完璧だと思ったが、今回のツーリズム調査の花見で本当の桜はやはり日本にあるのだと気づいた。

新宿御苑

 連日の雨がようやく上がって、お日様が明るい顔を雲の後ろから出してくれた。平日だが、公園は花見の観光客で賑わっている。
公園の地図を手に取りながら、散策を始めた。木の葉の隙間から漏れてきた暖かい日差し、池の中でけんかしている魚、あずまやで悠々と写生している素敵なおばあちゃんたち、すべてが絵のように美しい。

 撥墨(はつぼく:山水画の技法の一つ。筆に墨をたっぷり含ませて描く)の絵のように、こんもりとした木々に囲まれて、まるで兵士たちに守られている姫様のように立っている桜の木が現れた。濃い緑のなかにいきなりふんわりしたピンクが現れ、いかにも趣がある。 ピンクの雲の中で写真一枚をとり、この雲に乗り、空へ飛んでいって女神にでもなろうと…妄想してしまった。

 ジグザグの道から身を出し、目の前にサプライズが現れた。淡いピンクの桜、濃いピンクの桜、全部見たが、目の前に立っているのは淡いピンクにちょこちょこ濃いピンクが混じっている立派な桜だ。一瞬、日本の「さくらん」という映画の艶めいた色が頭をよぎった。金髪の外国人の女性がその下に立っていたが、いっそう美しく見えた。怪しく美しい。
芝生の広場に来たら、家族連れの花見の人たちが、春の日差しに金色の輪郭を描かれながら、はしゃいだり飛び上がったりして寛いでいた。そこで、昔貴族だけが楽しめる花見が江戸時代から一般庶民の楽しみになって、日本の独特な文化になったことはとてもすばらしいと思った。
桜の美しさにぼうっとするようになってしまった私たち三人は、落ち着いた気分になってから新宿御苑を出て、目的地2――上野公園へと出発した。

六本木

 上野公園の玄関まで来ると、気品が高い新宿御苑と全然違う雰囲気だ。目に見えるのは人、人、人。騒々しい。

 新宿御苑と違って、桜の木一本ぽつんとそこに立つのではなく、並木の桜が雲のように頭の上を覆っていて、壮観だった。ここの桜は花見以外、お酒を飲むグループの天井にもなっていた。日はまだまだ明るいが、青いシートを敷いた空地にデモみたいに座った若者が準備万全で仲間を待っていた。聞いてみたら、お昼の11時頃からもうここにいたそうだ。そのすぐ隣は巨大なゴミ箱だ。
なんてすごい酒飲み精神だろう。

 先日ニュースで見たが、11時までに退園しなければならない公園で夜明けまで飲む人がいるらしい。すごいことに、盛り上がったテンションに乗りながら、サラリーマンが木の枝にも乗る。猿みたいに木に登り甲高い声で叫び、泣いているように歌う。
いつも対人関係で自分を抑える、攻撃性が見られない静かな日本人と違ってこんなに羽目を外す日本人を初めて見た。
ひょっとして気晴らしなのだろうか?!

北の丸公園

 お堀の淵に立った瞬間、ここは別世界だ!と思った。

 壮大な美しさという言葉はこういうときに使うのではないか。満面の桜が咲いた坂の下、桜が水面を覆っている堀はピンク色に染められた大きな川だ。二三の船がいたずらのペンのように、ピンク色の水面に水色の線を引いた。船に乗っているのはどうも若いカップルみたいだが、いい思い出を作ってるねと私はほほえましく思った。日本で一年一回の桜の花見だが、またいつか見れるのでしょうか。
桜は最高だ。


以上

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桜が教えてくれた三つのこと

キム・ドンヒ

 日本に来て9ヶ月が経った。残り3ヶ月、韓国で私を待っている厳しい現実に正面から向かわなければならない時がますます近づいて来る。私は日本に来て何をしたのか。そして残り3ヶ月で何をするべきか。それを考えている内に焦ってしまうのだ。ちょうどその時に日航財団からツーリズム調査を行うことを知らされた。春の調査としてお花見が選ばれたのは「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」という日本の特別な雰囲気が感じられる為だろう。

桜と一生懸命

 4月3日の日差しは本当に温かかった。グリーンとイエローの芝の上で咲いているピンクとホワイトの桜は、冷たい風が吹いてくるにもかかわらず、春が来たことを知らせてくれた。それにあちこちから聞こえてくる笑い声は春の雰囲気をもっと豊かにしてくれる。幸せが胸に広がってくる気がした。風に揺れている花びらを見ていると、まるで自分が桜姫になったように花びら一枚一枚に愛情が感じられる。ところがその時、急に寂しい気持ちが襲ってきた。もうすぐ帰国する私にはこの花見が最初で最後だと思うと、いきなり涙が浮かんできた。しかしもっと悲しくなったのはその後であった。桜は一年間一生懸命頑張って春を輝かしているのに、私は今まで何を頑張ってきたのだろう。そう思うと桜を観に来た私はその資格がないのでは。まだ言葉が分からない、生活習慣が分からないなど色々な言い訳をしているうちにいつの間にか一生懸命を忘れていたのだ。

桜ともののあわれ

 一瞬の美しさ。それは日本人の美意識を考えさせる。世界何処の民族でも散る花に目を向けた民族はいないが、興味深いことに、日本人は桜が散るからこそ美しいと言う。「それはどうしてですか」と聞くと、戻ってくる返事は「短い間咲いてパッと潔く散るからです」だった。花びらのピンク色が奇麗だから桜が好きな私から見ると、とても分からない答えだった。しかし今回は少し違った。又いつ日本で生活ができるか分からない未来を考えつつ、今こそ日本の桜を堪能する最後のチャンスだと思うと、目の前にある桜がなんともいえなく切なく感じられた。いわゆる「もののあわれ」だったのかな。来年も又見られる日本人は私と違うかも知れないが、その桜がその年にしか見られないと考えると桜が愛しく見えると思う。その気持ちを何千年も築いてきたのだろうと思うと、桜を心から愛する日本人の気持ちがほんの少しだが分かる気がした。

桜と一期一会

 今年だけの桜。それは日本の茶道では一期一会と称するものではないか。限られている時間の中で生きている人間に「縁」を大事にすることを教えてくれる。私は日本に来て何よりも友達が多くできたのが一番嬉しかった。外国の生活でとても辛い時は自分が独りだと悟る時だと思う。私はここで苦楽を共にした友達や考え方を変えてくれた友達にも会った。人間は集団生活をするものだから、誰かと会うのは当たり前なことだと言うかも知れないが、彼らと出会ったのは確かに「縁」があるはずだ。そしてその縁にとても感謝している。望んでいるのは一期一会で終わらないように続けて連絡していきたいこと。

 ツーリズム調査中、桜の木の下でお花見を楽しんでいる人の集まりを見ながら、私がここに来て知り合った人たちの顔を思い出してみた。そして時間の有限性を感じながらこの一年日本での研修生活を振り返ってみた。「今週末でもうこの桜も散ってピンク色もなくなるでしょう」と言う同行者の話。永遠ではないからこそ意味が見つかるという真実を、桜は短い間一生懸命花びらに乗せて教えてくれたのだろう。私にはそれが桜の真心のように思えた。


以上

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