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東京一日見学レポート

張 洋



 6月18日、私は中国から来た許霞明さんと一緒に東京を見学した。好天に恵まれて一日中東京の観光名所をあちこち回った。具体的なスケジュールは:築地市場――皇居――浅草――六本木。初めて日本にきた許さんの視点を通して、私も普段気づかない「日本らしさ」を発見することができた。


 国際大都市東京を味わうには一日ではもちろん足りない。それでも東京の色々な面を見せてあげたいので、結構ハードなスケジュールを組んだ。最も大変だったのは朝。早朝の築地市場を見学するため5時ぐらいに起きて、築地についたのは7時半ぐらいだった。思った通りの雑踏ぶりだった。朝早くにも関わらず卸売業者や観光客ですでに満員状態。道を普通に歩いても、時々後ろから「邪魔だ邪魔」の怒鳴り声が聞こえてくる。さすが世界最大の卸売市場、まるで別世界でとても日本とは思えない。中国では市場はあまりにも日常的な存在だったので、正直私も許さんもこの雑踏ぶりにはびっくりしなかったが、「それにしてもこの水産物の量はすごいね」と、しばらく歩いたら許さんは言った。確かに海のない南京では一度にこんな大量で種類が豊富な水産物を見たことはない。幼稚園児と同じぐらいの大きさの魚を眺めながら、私たちはもっとも重要な目的である「朝ごはん探し」に入った。ネットで推薦されている寿司屋はどれも大行列、並んでいる人の80%は私たちみたいなリュクを背負って地図をじっと見ている観光客。私たちも行きたかった鰻丼屋さんの前の行列にさっそく並ぶことにした。 


 おいしい鰻丼で満足した後、次の目的地皇居に向かって出発した。活気あふれる築地市場と真逆で、天皇制の象徴である皇居は厳かな雰囲気に包まれていた。錯覚だろうか、苑内に入った瞬間周りが静かになったように感じた。時刻は朝10時半ぐらいだった。まだ早いせいか観光客の姿はあまり見なかったが、のんびり散歩している年寄りは結構いた。ここではもう怒鳴られないだろうと思って、私たちもスピードを落として、写真を撮りながら周辺を散策した。そしてついついここを同じ「皇居」である北京の故宮と比べたくなった。もし故宮のイメージを「覇気」だとすれば、ここは「和気」の方がふさわしいかもしれない。色合いからデザインまでシンプルで上品、特に自然との融合を重視しているところが印象深かった。自然を尊敬し自然のままを追求する日本美学を、この国家の象徴である皇居を通じて垣間見たような気がする


 三つ目の目的地である浅草についたのは午後2時過ぎだった。有名な観光地だから平日も大人気。歩きながら英語や中国語など色々な言語が耳に入るし、ずらりと並んだお土産屋さんはどこも外国人でいっぱい。有名なおやつの店の前も想像以上の大行列。私と許さんは大渋滞の仲見世通りを必死に通り抜けて浅草寺に参拝した後、まだ早いから周辺をぶらぶらすることにした。やっと人ごみから脱出することができ、「下町」の情緒をゆっくり味わうことができた。一軒一軒の店舗がきれいに並んでいて、ほとんどが狭くて古い店で今流行りのおしゃれな感じとは違うが、老舗の歴史がある落ち着いた雰囲気がかえって人目を引く。道そばに立って大きい声で観光客を招いていた人力車の車夫たちは、日焼けで皮膚は真っ黒だが、笑うと白い歯が見えて意外にかっこよかった。遠くにスカイツリーの姿が見える。「そこに行くとまた全然違う若々しい雰囲気を体験できるよ」と私は提言したけれど、どうやら許さんは浅草の雰囲気が気に入ったらしい。「イメージ通りの日本伝統的な庶民の町」と、彼女はこう言った。 


 時刻は午後5時。最後のスポットに向かって出発した。一日の締めとして、私たちは六本木を選んだ。何度も何度も友達に六本木ヒルズの夜景を薦められたからだ。着いたときはまだ明るかったので六本木周辺を回ってみたが、想像以上に困難だった。迷路みたいに設計された建物の中でぐるぐる回って、地図をいくら見てもなかなか行きたい店に辿り着くとこができなかった。同じ店の前を何度も通過して「いらっしゃいませ」を何度も聞いてしまい、最後は店員さんの目と合わせるのさえ恥ずかしかった。幸いその後ネットで調べてみたら、どうやら日本人にとっても六本木の構造は結構わかりにくいらしい。「私だけじゃない!」と思ってやっとほっとした。六本木地区は「現代アート」を展示する美術館で有名だが、もしかしたら六本木ヒルズ自体もそのアートの一部かもしれない。構造がわからない、意味がわからない、でも惹かれてしまう。これが現代アートの不思議な魅力かもしれない。 


 展望台に登ったのは9時ぐらいだった。平日の展望台はあまり混んでいなかった。入口から入って2,3歩歩けば目の前に東京の夜景が広がっていた。あまりにもきれいだったから見惚れた私たちは座ることさえ忘れて、立ったままじっと眺めていた。きれいな夜景なら以前も見たことはあった。色とりどりのネオンがキラキラ光って、きれいはきれいだがすぐ飽きてしまう。東京は違った。見渡す限り鮮やかなネオンの光はほとんどなかった。夜空を照らしているのは窓から見えてきた光。窓以外の部分は真っ黒で夜の空に溶け込んでいたが、キラキラ光っている窓の光が何ヶ所に集めてまるで銀河のようだ。高層ビルのないところは光源の数が減って、光も弱く見えるが、銀河の周りに散りばめている星のようだ。そして私は考えた。東京の夜景が東京でしか見られない理由。この夜景は人を楽しませるために作られたものではない。その無数の光の中に見えるのは夜遅くにもかかわらず働いているサラリーマンたちの姿。この夜景は日本を象徴するものの一つ――「残業」が生み出した絶景といっても過言ではない。そしてその無数の金の光の中、燃えているような東京タワーはいかにもインパクトがありすぎた。夜の東京タワーを見るのは初めてじゃないが、この美しさには何度見ても驚かされる。映画で見るよりも写真で見るよりも、その言語で表現できないぐらい生命力のある夜景は一生忘れない。


 「東京はどんな都市だと思う?」最後このレポートを書くために私は許さんに聞いた。「現代的。街がきれい。人が多い。そして歩くのが早い。コンビニとトイレが多くて便利だがゴミ箱が少なすぎる。大都市だが意外に静か。みんなルールを守っていて、それぞれ自分のことをやってあまりしゃべらない。接客が親切すぎてびっくりするが、店員さんの声が高すぎておかしくて笑っちゃう。あぁ…いっぱいありすぎてわからない…」確かにこんな一日を過ごしたら誰でもわからなくなってしまうだろう。違う人から見た東京それぞれ違うから、この世界には無数の東京が存在している。昼の東京。夜の東京。笑顔溢れる東京。人情薄い東京。寂しい東京。騒がしい東京。…この都市の真の姿は一日どころか一生かかってもわからないかもしれない。わからないから好き、東京だから、好き。


 以 上




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