雛祭り研修レポート

台湾 国立政治大学 陳伊璘


   三月三日に雛祭りの文化を学ぶために、目黒雅叙園と三井記念美術館に雛人形の展示会を見学しに行った。案内してくださったのは飯塚さんである。ちょうど前日の三月二日には、社員寮の食堂で雛祭りにぴったりのちらし寿司のメニューが出たので、美術館巡りの前に少しだけ雛祭りの雰囲気を味わった。

 一つ目の展示は、目黒雅叙園の「百段雛まつり 九州ひな紀行∐」だった。目黒雅叙園の見どころは、建物の中の99段の長い階段の先に、天井と床柱に四季の花鳥画などの絵や彫刻をあしらった華麗な七つの部屋が繋がっているところである。毎年早春の恒例催事として、七つの部屋では全国に伝わる古いお雛様の名品が集う雛祭りの展示を行う。今年のテーマは、九州各地の雛人形であった。


  (目黒雅叙園のつるし雛)


 今回見た九州の雛人形には、関東地区との明らかな違いがある。それは男雛と女雛の並べ方である。関東地区の場合は、雛壇に向かって女雛が右で、男雛が左になる。九州の方はその逆で、男雛が右で、女雛が左である。また、随身(左大臣と右大臣)の位置も違うのではないかと飯塚さんがおっしゃっていた。一般的な並べ方では、上から一段目が内裏雛(男雛と女雛)、二段目が三人官女、三段目が五人囃子(右から「謡」、「笛」、「小鼓」、「大鼓」、「太鼓」)、四段目が随身(右が左大臣、左が右大臣)、そして五段目が三仕丁(右から、「笑い声」、「泣き声」、「怒り声」)である。その他の人形や雛道具などは、家庭によって違いがあるかもしれない。しかし目黒雅叙園では、一段目の内裏雛の両方に左大臣と右大臣が置いてある飾り方をいくつも見た。


 (座敷雛  写真提供:目黒雅叙園)

 ある部屋に飾られていた雛人形がとても印象に残ったので、ここで紹介したい。それは、「漁礁の間」に置いた座敷雛である。座敷雛というのは、雛壇に飾るだけではなく、部屋全体にびっしりと多くの人形を飾りつけ、町や山野の風情を再現するという大規模な飾り方である。今回見たのは「雛が見た日本のまつり」という展示テーマで、全国各地の有名な祭りをお雛様の目から見る、というコンセプトであった。総勢800体の座敷雛の中には、青森ねぶた祭り、京都の葵祭と祇園山鉾、九州の博多山笠などが表現されていた。祭り以外にも、日本の昔話に出る人物もいくつか見つけた。何が隠れているのかひとつひとつを探すだけでも十分楽めた。


 二つ目に見学した展覧会は、三井記念美術館の「三井家のおひなさま」であった。この三井記念美術館は、三井グループで知られる三井家が江戸時代から収集してきた美術品を収蔵している。今回の「三井家のおひなさま」という展示は、三井家の夫人や娘が大切にしてきた雛人形や雛道具を公開していた。ここの雛人形は関東の並び方に従って、男雛が向かって左側、女雛が右側に座る並び方をしている。 


 当日の目黒雅叙園は非常に混んでおり、正直に言ってじっくりと雛人形を見ることはできなかったが、こちらの三井記念美術館ではゆっくり見ることができた。展示を見て、雛人形のかたちが一つだけでないことが分かった。例えば、面長で能面のような顔たちをしている享保雛、紙製で立った姿勢をしている立雛や、丸い顔に細い目が特徴の次郎左衛門雛などがあった。


(三井記念美術館の売店で買った 「日本
の美術事始め」という小冊子の裏表紙)

 また、今回は一般の展示物だけでなく、特集展三井記念美術館で驚いたのは、雛道具の数の多さと精密な彫刻である。雛道具とは雛人形を引き立てる小物で、お雛様の嫁入り道具である。どんなものでも、本物をとても小さなミニチュアで再現してある。例えば御所車や御駕籠などは外側から内側まで、とても丁寧に絵が描かれている。また百人一首の札もあり、人間の爪より小さな札に文字と絵が書かれており、その緻密な技術にとても驚いた。


 ほかの展示室では茶道具を展示していた。特に仁清という陶工が作った茶碗がいくつか展示されていた。茶道具に詳しくない私に、飯塚さんが仁清のことや仁清が作った茶碗の美しさを説明して下さった。


 三月三日はたくさんの綺麗な雛飾りを見ることができた。展示室で写真を撮ることができなかったのがとても残念である。実は私は人形が怖くて苦手であるため、見学する前は雛飾りを楽しめるかどうか少し不安であった。しかし飯塚さんに付き添って頂き、雛祭りの文化をしっかりと学ぶことができた。また雛人形は思っていたほど怖くなく、むしろ美しいと思った。特に目黒雅叙園で男雛の着物の裾から足がのぞいているのを見つけた時には、思わずかわいいと感じた。雛祭り研修に行くことができ、とても良い思い出になった。


以上




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