<新大気観測プロジェクトの歩み>


1. 温室効果
地球は毎日、太陽からのエネルギーを受け取っていますから、そのままでは、地球の温度はどんどん上昇し続けます。しかし、地球は、太陽から受け取ったエネルギーと同じ量のエネルギーを、宇宙空間に向けて放出しているため、最終的に、熱収支のバランスがとれて、ある一定の温度を保っています。この地球から放出されるエネルギーは、主に赤外線によるものです。

地球から赤外線が出ているって ? と思われるかも知れませんが、これは、白熱電球のように温度の高い物体からは主に可視光線が放射されるのに対して、電気ごたつのような低温の物体からは主に赤外線が放射されるのと同じ理由によるものです。

このようにして、太陽から受け取るエネルギーと地球が放出するエネルギーの収支のバランスがとれて、地球の温度が一定に保たれてきました。しかし、もし地球にいまのような大気がないとすれば、このようなバランスによって決定される地表平均温度は、約−18℃ になると言われています。

冬のあいだ、空が晴れわたっていた夜の翌朝は冷え込みがきびしく、空が曇っていた夜の翌朝は冷え込みが緩むことはよく経験することです。また、晴天の夜に冷え込みが厳しくなることを 「放射冷却」 と呼ぶことは、天気予報などを通じてお馴染みです。

この放射冷却は、地球からのエネルギーが、宇宙空間に向けて放出 (放射) され、地表や地表付近の大気が冷えることが原因です。

大気に含まれている水蒸気や二酸化炭素などには、可視光線は通すが、赤外線についてはその一部を吸収するという性質があります。その結果、主に可視光線の形で到達する太陽からのエネルギーは地表まで届きますが、主に赤外線の形で宇宙空間に向けて放出される地球からのエネルギーはその一部が吸収され、地表に向って再び放出されます。

このようにして、地球から放出されるべきエネルギーの一部が、いったん大気に捉えられ、その再放射によって地表が温められます。この結果、地球全体が暖まるため、そのような効果を 「温室効果」 と呼び、温室効果を持つ気体を 「温室効果ガス」 と呼んでいます。

もし、大気に赤外線を吸収する温室効果ガスが含まれていなければ、−18℃ になるはずの地表の平均気温が、実際には、それよりも 33℃ も高い15℃ となっているのは、大気が赤外線を吸収することによって、地表の放射冷却を防ぐ働きをしているためです。


なお、水蒸気は非常に強い温室効果を持っていますが、その量を人類がコントロールすることはできないため、水蒸気は温室効果ガスとは呼ばないのがふつうです。

 


 

2. 温室効果ガス

地球の大気には、以前から温室効果ガスが適度に含まれていたために、地表付近の平均気温は、−18℃ ではなく+15℃ 程度に保たれてきました。

しかし、近年になって、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスが急激な増加を示しており、このままのペースで温室効果ガスが増加し続けると、温室効果が過大になって地球が温暖化してしまうのではないかと危惧されています。

温室効果を持つ気体には、二酸化炭素のほかに、メタン、亜酸化窒素 (一酸化二窒素)、オゾン、ハロカーボン類 (CFC、HCFC、HFC、ハロン) などがあります。ただし、温室効果の総量のうちの半分以上が二酸化炭素に起因するものであるため、当面は、二酸化炭素の排出量を規制することが最も重要であるものと考えられています。

ところで、ある温室効果ガスが増加した場合の、温室効果に及ぼす影響の度合いは、その気体が、地球から放射される赤外線をどの程度吸収するか、という度合いに依存しています。

たとえば、メタンの場合、単位重量あたりの赤外線を吸収する度合いは、二酸化炭素のそれよりもかなり大きいのですが、絶対的な存在量そのものが二酸化炭素よりも少ないため、図のように、トータルとしての温室効果は、二酸化炭素よりも小さくなっています。

一方、CFC や HCFC の場合には、それらの絶対的な排出量は著しく少ないにもかかわらず、単位重量あたりの赤外線を吸収する度合いが極めて大きいため、図のように、かなりの大きさの温室効果を持っています。

成分ごとの温室効果への寄与度

また、それぞれの気体には、大気中での固有の寿命があります。したがって、たとえば、20年とか、100年といった長い時間スケールでの各気体の温室効果を見るためには、「その気体の寿命」×「その気体の温室効果の強さ」 のようなものを考えて、トータルとしての温室効果を算定しておくと便利です。

そのために考案されたのが、地球温暖化指数 (GWP : Global Warming Potential) と呼ばれるものです。これは、単位重量の二酸化炭素の放出による温室効果を1とした場合の、それぞれの気体の単位重量の放出による温室効果の度合いを示すものです。

表からも分かりますように、ハロカーボン類の地球温暖化指数が著しく大きくなっていますが、これは、ハロカーボン類の赤外吸収が著しく強い上に、寿命も長いためです。このように、ハロカーボン類は、オゾン層破壊だけではなく、地球温暖化に対しても大きな影響力を持つ気体で、その規制は、温暖化防止の上からも重要です。

地球温暖化指数(抜粋) 地球温暖化指数=GWP




3. 二酸化炭素の観測網

大気中の二酸化炭素濃度の精密な観測は、1958年から、ハワイ島のマウナロア山の中腹にある米国海洋大気庁 (NOAA : National Oceanic and Atmospheric Administration) の観測所において、スクリップス海洋研究所のキーリング博士によって開始されました。その後、1974年からは NOAA も併行して観測を続けています。このマウナロアにおける観測結果が図に示されています。

マウナロアでの観測結果

その後、世界各国で、二酸化炭素濃度の観測が開始されるようになってきました。わが国でも、下記のような定常観測が実施されています。(実際には、もっと多くの観測が行われています。ここに挙げたものは、その一例です)

これら世界中の観測結果から、大気中の二酸化炭素が増加し続けていることが判明したわけですが、それでは、昔の大気中に存在したであろう二酸化炭素の濃度は、どのようにすれば測定できるのでしょうか?

実は、南極やグリーンランドにある氷床をボーリングして得られたコア (氷床コア) から、氷中に閉じ込められている大昔の大気を抽出して、その中に含まれている二酸化炭素の濃度を測定するという手法が採られています。

図には、氷床コアを用いて測定された昔の大気に含まれていた二酸化炭素濃度と、マウナロア山での観測開始以来、世界中で観測された結果が、まとめて示されています。

二酸化炭素濃度の長期的な変動

これから、(1)大気中の二酸化炭素は、産業革命以前は長い年月にわたって、体積比で約 0.028 % (280 ppmv) という濃度を保ってきたこと、(2)ところが、産業革命以降、森林の大量伐採と化石燃料の大量消費によって、二酸化炭素の濃度が急増し、現時点では、約 0.036 % (360 ppmv) まで増加していることが分かります。

一方、気温の観測結果によりますと、地球の平均温度は、これまでの100年間に、約0.6℃上昇してきました。これは、二酸化炭素の増加のような人為的な影響が全球の気候に影響を与えてきたことを示唆するものであると考えられています。

最近100年間の気温の変化

このまま二酸化炭素の濃度が増加し続けますと、温室効果がさらに顕著になって、地球温暖化が加速されるのではないかと危惧されているわけです。




4. 温暖化による影響の評価

地球温暖化に対処するための施策を進めるためには、気候モデルなどを用いて、将来の地球温暖化の見通しを立てることが必要です。

世界気象機関 (WMO: World Meteorological Organization) と国連環境計画 (UNEP: United Nations Environment Programme) は、1988年に 「気候変動に関する政府間パネル (IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」 を設立し、各国の科学者の参加を求めて、地球温暖化の科学的・技術的評価を行っています。日本からも、関係省庁や大学などから、多くの研究者がメンバーとして参加しています。

IPCC が1990年に発表した第一次評価報告書は、1992年のブラジルのリオデジャネイロで開催された 「国連環境開発会議 (地球サミット)」 で署名が開始された 「気候変動に関する国際連合枠組条約 (地球温暖化防止条約)」 の科学的基礎となりました。

また、IPCC は1995年12月に、その第二次評価報告書を発表しました。その中で、このまま推移した場合には、最もあり得る可能性として、2100年までに、地球の平均気温は現在より約2℃上昇し、海面水位も約50cm上昇すると見積っています。(気温上昇と海面上昇の予測の幅としては、それぞれ、1.0〜3.5℃、15〜95cm となっています)

 


IPCC 第2次評価報告書での予測

 

さらに、2001年4月に発表された第三次評価報告書では、2100年までの、地球の平均気温の上昇を1.4℃〜5.8℃、海面水位の上昇を9cm〜88cmと見積っています。

IPCC 第3次評価報告書での予測

 

モデル計算の結果

温暖化と言っても、2℃とか3℃に過ぎないのかと思われるかも知れませんが、氷河期と現在との間でも、気温の差は約5℃にすぎなかったことを考えれば、その影響の大きさは決して無視できるものではありません。むしろ、重大な影響を及ぼす可能性がある値であると考えるべきものです。

さらに、平均気温が2℃とか3℃上昇するといっても、地球全体が一様に温暖化するわけではないと IPCC は結論付けています。このことは、わが国のモデル計算からも示唆されており、高緯度地方ほど温度上昇が大きいものと見積られています。つまり、低緯度地方の温度はあまり変化せず、中・高緯度地方の温度がかなり上昇するものと考えられています。

これらの予測が正しいとすれば、主に中緯度地方に分布している穀倉地帯が影響を受けることは必至ですし、砂漠化の傾向を持っている地域では、さらに砂漠化が進む可能性があります。

また、樹木は一般に、種子を介して、自ら適温の地域に移動して行きますが、温暖化が急速に進んでしまいますと、樹木の移動速度が間に合わず、結果的に、森林の分布の様子も影響を受ける可能性があります。

さらに、温暖化によって、海水が膨張するとともに北極や南極近くの氷が溶け出すことも考えられます。島嶼国や、そのほとんどが海岸線に沿って発達している現在の都市は、その一部が海に水没してしまうといった可能性も考えられています。




5. 温暖化の予測

世界の多くの科学者は、温室効果ガスの増加によって地球の平均温度が今後徐々に上昇してゆくものと考えています。しかし、西暦何年には何度上昇するのか、そのとき、地球のどの部分が何度上昇し、どの部分の気候がどう変化するのか、といったことを予測することは、現在のところ極めて困難です。

このような予測を行うためには、地球温暖化のメカニズムを詳細に把握するとともに、そのメカニズムを数式化した数値モデルを作成し、それをスーパーコンピュータに計算させることによって、将来の温暖化の傾向をより正確に予測する、といったプロセスが必要です。


将来の気候変動予測に必要な研究領域

 

気候モデルでは、計算機 (スーパーコンピュータ) の中で、地球を、緯度経度ごとに細かく分割します。たとえば、100 km × 100 km といった具合です。次に、それらを上下方向に十数層に分割します。たとえば、海中5層、大気10層といった具合です。

そして、それらの格子点ごとに、気候を支配する数式を入力します。次に、それらの格子点ごとに、ある特定の日の気象条件を入力し、上記の数式にしたがって変化する各パラメータの変化量を計算し、次の時刻の値を求めます。この操作を順次繰り返して、数年後あるいは数10年後の地球の様子を予測します。


モデル計算のための格子点

 

次の図は、東京大学気候システム研究センター (CCSR)、国立環境研究所 (NIES) および海洋開発研究機構地球環境フロンティア研究センター (FRCGC) が共同で行ったモデル計算の結果を示したものです。なお、この計算は、「地球シミュレータ」 を用いて実施されましたが、この地球シミュレータは、現時点で、圧倒的な世界最高の性能を誇るスーパーコンピュータです。


CCSR/NIES/FRCGC による予測

 

しかし、現在の気候モデルはまだまだ十分な精度を持っておらず、さまざまな高度化を図る必要があります。

たとえば、地球温暖化の予測精度を向上させるためには、今後、海洋の役割を十分に解明する必要があります。実は、海洋は、無機の炭素化合物、植物プランクトンあるいは溶存有機物などの形で、大気中に含まれている量の約50倍の炭素を蓄えており、海面を通じて、それらを大気と交換しているのです。

したがって、予測精度のさらなる向上のためには、今後とも、大気の観測体制とともに海洋についての観測体制も充実させ、長期間にわたるデータを蓄積することによって、大気と海洋間の二酸化炭素のやり取りを解明し、それを気候モデルに反映させることも重要です。

そのためには、まず、観測網を充実することが重要です。たとえば、二酸化炭素を構成する炭素は、二酸化炭素以外にも、いろいろな種類の化合物に姿を変えながら、大気、海洋、生物圏 (森林等) の間を循環しています。気候変動の予測のためには最も基本的な要素のひとつであるこの 「炭素循環」 だけをとらえてみても、まだまだ不明な部分がたくさん残されているというのが現状です。




6. ハロカーボン類

CFC (クロロ・フルオロ・カーボン)、HCFC (ハイドロ・クロロ・フルオロ・カーボン)、および HFC (ハイドロ・フルオロ・カーボン) などを総称してハロカーボン類と呼んでいます。ハロカーボン類は、冷蔵庫やエアコンの冷媒用にたくさん使われていますので、お馴染みの物質です。

CFC (クロロ・フルオロ・カーボン) は、図のように、炭化水素 (この例ではメタン) の中の水素をすべて、塩素およびフッ素によって置き換えたものです。

塩素は Chlorine ですので、塩素を含むという意味の 「クロロ」 という言葉が付いています。一方、フッ素は Fluorine ですので、フッ素を含むという意味の 「フルオロ」 という言葉が付いています。最後の 「カーボン」 は、言うまでもなく炭素ですから、「クロロ・フルオロ・カーボン」 は、塩素とフッ素を含む炭素化合物であることを意味していることになります。

CFC には、炭素、塩素、フッ素の組み合わせによってたくさんの種類があります。図は、その一例として CFC-11 の分子構造を示したものです。

CFC は、化学的な安定度が高く、また無害であり、その上に、その沸点が、冷媒として使用するにあたって非常に好都合な範囲内にあるため、冷蔵庫やエアコンなどに多用されてきました。

しかし、CFC は、その化学的な安定度が高いため、いったん放出された CFC は、対流圏では分解されず成層圏まで上昇します。そして、紫外線が強くなる上部成層圏まで上昇しますと、CFC は 「光解離」 と呼ばれる現象によって分解され、大気中に塩素を放出します。そして、その塩素が、成層圏のオゾンを破壊してしまいます。

このようにして、成層圏のオゾンが破壊されると、オゾン層が遮断してくれる 「高いエネルギーを持った有害な紫外線」 の一部がそのまま地表まで届いてしまうことになるため、皮膚ガンが増加する、あるいは農作物の成長が遅れるなどの被害が生じる可能性があるとして、モントリオール議定書によって生産禁止の措置が採られたわけです。

こういった CFC の欠点を改善するためには、化学的な安定度を低下させてやれば良いわけです。そうすれば、その物質は、対流圏の中で分解してしまい、成層圏まで到達しないからです。そのために、CFC に含まれている塩素あるいはフッ素の一部を、水素で置き換えることが考えられました。

これが、HCFC (ハイドロ・クロロ・フルオロ・カーボン) です。図は、その一例として HCFC-21 の分子構造を示したものです。HCFC には、塩素も含まれていますが、水素が入っているために対流圏で分解されやすく、成層圏のオゾンを破壊する能力は CFC よりも小さいとされています。


この考え方をさらに進めたものが、HFC (ハイドロ・フルオロ・カーボン) です。図は、その一例として HFC-23 の分子構造を示したものです。このように、HFC では、塩素のすべてが水素で置き換えられているため、オゾンを破壊することはありません。

なお、我が国では、CFC、HCFC、HFC のことをすべてフロンと呼んでいますが、この名称は海外では使用されませんので、注意が必要です。




7. 日本航空グループによる旧大気観測プロジェクトの歩み(新大気観測については、こちらを参照ください)

1991.09

大気観測プロジェクトの発足

1992.01

採取方法検討のための試験飛行 (外気とエアコン用エアの組成比較)

1993.02

観測用搭載装置 (ASE) の開発を完了

1993.04

飛行試験の実施。航空局の検査に合格し、定期旅客便での運用承認

1993.04

ボーイング747型機 (JA8127) による観測第1便を運航、(ケアンズ → 成田)

1994.07

ボーイング747機 (JA8131) を改修。観測路線をシドニー → 成田間に延長

1994.09

観測頻度を月2回に拡充

1995.03

日本航空が「フジテレビジョン賞」を受賞

1995.11

大気観測プロジェクトが日経地球環境技術賞(日本経済新聞社主催)を受賞

1996.06

日本航空技術研究所が「気象庁長官表彰」を受賞

1997.07

日本航空が、フライト・インターナショナル社から表彰を受賞

1998.01

NHK「クイズ日本人の質問」でASEがクイズの対象になった

1998.04

100回目の観測を記録

1998.08

羽田空港で開催された「天気のふしぎ展」で、大気観測を紹介(ASEを初公開)

1999.11

気象研究所 松枝秀和氏が気象学会「掘内賞」を受賞

2000.05

150回目の観測を記録

2000.06

日本航空と日航財団が「運輸大臣表彰」を受賞

2001.08

羽田空港で開催された「わんぱくエコロジー展」に、大気観測の紹介パネルと ASE を展示

2001.10

仙台で開催された 「第6回二酸化炭素国際会議」 に出展

2001.11

日本航空の50周年を記念して、2001年11月8日に経団連ホールで開催された 「環境シンポジウム」 に、大気観測の紹介パネルと ASE (初公開) を出展

2002.04

観測路線をブリスベン → 成田間に変更

2002.06

200回目の観測を記録

2002.08

朝日新聞に大気観測の紹介記事が掲載された。

2002.10

TBS テレビ 「ニュースの森」 の中で、大気観測が紹介された。

2003.06

日本経済新聞に大気観測の紹介記事が掲載された。

2003.12

現行大気観測プロジェクトのための委員会の最終回として、「地球環境観測検討委員会 第11回委員会」を開催

2005.09

250回目の観測を記録

2005.12

ボーイング747型機による大気観測を終了。観測総計278回。


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